私の身の回りで夫婦だけで店をやっている所は結構多い。一日中一緒の時間を過ごしていて、お互いに嫌にならないかなと他人事ながら心配になる。

 例えばいつも利用している理髪店さんは夫婦で店をされて40年近くになる。店に入ると「いらっしゃいませ~」という声と同時にお互いに目を合わせ、何とか待ち時間を短くしてあげなくてはと散髪のテンポが少し早くなる。お互いの息が合っているので、店に入った途端夫婦のどちらかが散髪の担当になるか決めてあるらしい。小1時間して髪がさっぱりしてお金を払おうとすると、夫婦のどちらかがお釣りを用意して待ってくれていて実に連携が良いのだ。

 『くら』のマスターとは40年来の付き合いである。第一印象は自由奔放な人だと思った。しかし料理の味は確かである。何でこんな味を出せるのだろうと不思議だった。コロナ禍もあり暫く会えなかったが、先日新しいレストランを開業したというので寄ってみた。すると横に満面の笑みの奥様がいた。何と新婚さんだったのだ。仕事振りを見ていると料理の手際の良さにびっくりする。そしてやはり彼の腕は健在だった。前よりも数段上がったような気がする。それもきっと奥様をもらわれて生きがいのギアが入ったのだと思う。結婚して新妻を持つという事で、彼の人生はどれだけ豊かになったことか。彼の表情と料理を見ていると良く分かる。

 よく行くカクテルバーも50年以上も夫婦だけでされている。10人も入れば一杯の店内はいつも満席である。飲み物をオーダーするとマスターが実に器用な手つきでシェイカーを振る。注がれたカクテルは計算されたようにぴったりとグラスに収まる。奥さんはもっぱらおつまみ係である。この夫婦の動きを見ているとカクテルとつまみの出るタイミングが実に良い。それはカクテルが出来る頃になるとマスターが奥さんに目配せをするからである。

 夫婦で経営している店の共通点がある。それは①愛想は決して良いということではない②値段が安い③こじんまりした店である④拘りをもっている⑤腕が良い⑥愚痴を聞いてくれる⑦又行きたいという気になるなどだ。

 仲むつまじく働いている夫婦を見ていると、どうしたら24時間一緒こんな風に仲良くなれるのかいつも羨ましく思いながら店を出る。我々夫婦もこのような店から学ばなくてはいけないと思うのだが中々難しい。