40年位前、アフリカのサバンナを旅行していた時の事である。暑さと疲れ、それに食習慣の違いから熱を出し寝込んでしまった。しかも近くの街から車で半日位離れた周りに何もないロッジの中である。勿論電話もない医者もいない。
土壁に囲まれたロッジの中でじっと熱が下がるのを待っていた。頭はぼーっとしてまるで夢遊病者みたいで、喉がやたら乾く。小さな窓からはアフリカの焼けつくような広いサバンナが広がっている。意識が朦朧とする中でこのままこの草原で死んで行くのだろうかという恐怖に陥る。
幸い2~3日して熱は下がり元気に旅を続けることが出来た。友人にその話をすると「あんた医者だからまだ良いじゃない。自分で診断して薬を飲めるから」と言う。病気になったら医師も患者も全く関係ない。なぜなら同じ人間だからである。
その時つくづく思ったことがある。元気で旅をしている時は良いが、病気になった時に現地の人達にどうやってその症状を伝えることが出来るのかということである。例えば頭が痛いという表現は英語ではheadache(ヘッデッケ)であるが、割れるようなに痛いのか、ズキズキするのか、ボーっとするのか、右、左どちらが痛いのか、こめかみが痛いのか、吐き気を伴った頭の痛みなのか、ハンマーで叩かれた様な痛みか伝えるのは至難の業である。
そのような悩みを解決する為に、ドクターパスポートという本が出版された。それは英語、仏語。スペイン語、中国語、韓国語、言語の各々の病気について言葉が通じなくても、自分の症状の所に印付けると、相手の国の人に病状を伝えることが出来るようになっている。大きさは大学ノートの大きさでアレルギー体質、今までかかった病気など書き込む病歴シート。各々の症状を描いてある病状表現シートに分かれる。言葉が全く通じなくてもそこを指示すと、今の自分の病状を相手に伝えることが出来る。外国に行く時は便利そうだ。
最近ではスマホの普及で、アプリを使って外国の言葉で症状を伝えることが出来る。或いはポータブル翻訳機が安価で販売されていて便利だ。しかし伝えるのは伝わったが、相手の医者がやぶ医者で全く治らなかったからと言っても文句は言えない。