ある作家が回りの人々に「私リンジュウ期です」と言いまくったそうです。すると回りの人達がまだ若いのに「リンジュウ期?そんな縁起でもないことをおっしゃらないで下さい」。でもリンジュウというのは誰でも『臨終』ということを考えますよね。しかしまだピンピンしていて何故にリンジュウキ?と首を捻るのは当然のことでしょう。

 古代インドの考え方では人生を春夏秋冬に分けて考えたそうです。春はまだ若い年齢のことで『学生期』といいます。色々なことを学び成長していく時期です。夏は『家住期』と言われ、仕事を覚え、結婚し子どもが生まれ、一生懸命育てる。人生で一番輝いている時期です。そしてそろそろ定年を迎え、子育てもひと段落していく時期を『林住期』といいます。今まで生きてきた事を振り返り、自由な時間が増えてきます。季節では秋です。時間的にも経済的にも恵まれた時期なのです。現代の人々は残念ながらこの林住期も生きるのに必死です。退職しこれからの人生を楽しもうという時、思った程の年金は貰えず、まだ必死に働かなくてはいけないのです。そして次々来るのが「遊行期」。そろそろ死のことを考え、その先のことも考えないといけない冬の時期なのです。私は今まさに林住期と遊行期の間にいます。

 開業し産婦人科医として37年間、365日、24時間1日も休まず仕事をしてきました。一昔前「24時間戦えますか?」というCMがありました。当時それは当たり前だと思っていました。分娩はいつ始まるか分かりません。外出している時も、ぐっすり眠っている時もです。夜中は呼ばれて3分以内には分娩室に駆けつけていました。多い日には6人も生まれたことも何回かあります。分娩中には色々なトラブルが起こります。その為年間40回位救急搬送し、救急車に患者さんと一緒に乗っていました。70歳を過ぎたころからそういう生活が段々きつくなり、72歳の誕生日を境に分娩取り扱いを止めました。

 分娩を止めて1年近くになりました。皆さん「楽になったでしょう?」と言われるのですが、確かに楽にはなりました。しかし何か糸が切れた凧みたいに宙を舞っていて、何となく落ち着きません。つまり林住期を楽しむ機会を逸したのかもしれません。知らないうちに早めに遊行期の準備が必要になりそうな毎日です。しかし春に比べたら何と冬の早いこと。今つくづくそう思います。