ブックマッチというのを御存知だろうか?厚さ5~6ミリで、大きさは名刺の半分位のサイズ。普通のマッチは厚さ1センチ位あるのに対し、スリムでポケットに入れても嵩張らないのが特徴だ。材質はボール紙で出来ており、二つ折りにすることが出来る為、その恰好が本みたいに見えるのでブックマッチと呼ばれているのだ。その隙間にマッチが入っている。その軸は紙で出来ていて、ボール紙に貼り付けてある。それをもぎ取って火を点けるのである。

 50年位前はどこの喫茶店、飲屋に行っても灰皿が置いてあり、店の中に入るとタバコの煙が充満しとても煙たかった。その灰皿の中にマッチが入っていて、それで火を点ける。当時はまだ100円ライターなどがなかったので、タバコの火を点けるにはマッチしかなかったのである。最近の子ども達はマッチさえも知らない子がいて、マッチを手渡しても使い方を知らずに首を捻るという。そういえば最近はマッチそのものもあまり見なくなった。

 学生時代に喫茶店や飲屋に入るとそこの店のマッチを必ず持ち帰っていた。そしてそれをスクラップブックに貼るのである。誰と会ったのか、どんな話をしたのか。どんなものを食べたり飲んだりしたのかとかをマッチを貼ったスクラップの余白に書き込む。それを後から見るとその時の様子が目に浮かぶ。しかし最近はタバコを吸う人も減り、禁煙になっている店が増えた。しかも100円ライターがどこにでも売っているので、それを使うことが多くなった。

昔はタバコを吸う人はライターにも凝っていた。100万円もするようなカルティエのライターを見せびらかしながら火を点けるのが憧れの的だった。だがそういうのを持っている人は稀だった。だから愛煙家はタバコとマッチをいつも持ち歩いて行かなくてはいけなかった。

 さて、私はタバコを一回も吸ったことがない。タバコとマッチをいつも持ち歩くというのが面倒くさいと思ったからだ。今72歳。喫煙しても良い年齢の20歳から数えると52年間経つのである。現在タバコは1個500円位する。もし1日1箱吸うとすると1年365日×500円で年間18万円かかる。52年間吸っていれば1000万円近くもタバコ代にかかっている計算になる。ベンツ一台くらいは楽に買える。

 さて一時代を飾ったブックマッチも今月で制作を中止するそうだ。時代は確実に変わっていく。スクラップに貼られたマッチ達を見ながらそう思う。そしてその時スクラップに貼ったマッチの横に書いてあるメモを見ると、当時の様子がよく分かる。みんな若かった。そう、青春時代そのものだったのだ。