私は『Bar』が好きだ。カウンターに一人で座りカクテルを頼み、それが目の前で作られ出てくる。その工程を観るのが好きなのだ。居酒屋みたいにビールと焼酎しかないと飲むメニューを選ぶ楽しみがないが、Barだと何十種類もあり、その中から選ぶのが楽しみなのだ。店によっては“今日のカクテル”や”当店オリジナルカクテル”などがメニュー以外にあり、それを楽しむことが出来る。しかし何より楽しみにしているのは、その店のバーテンダーとの語らいである。そこで色々世間話をしてそれを楽しむのである。バーテンダーの人はユニークな人が多く、その語らいが楽しいのだ。

 しかし最近人がいないBarが出来たという。それはハウステンボス内にある。その名も『変なBar』中に入り席に座ると、そこにタブレットがある。それを押せば注文OKだ。その後カードで代金を支払い、飲み物のサーバーに行き、表示される席の番号を押せば、グラスに飲み物が注がれるという仕組みだ。そこに人は誰もいない。何とも淋しいBarだ。それでも物珍しさに来店する人も多いそうだ。

 全国には色々なBarが存在する。「ボーズバー」というのもある。中でシェイカーを振っているのは何とお坊さん。来られた人の悩み事の相談に乗ってくれるのだという。少しアルコールが入るとやはり話やすいのだろう。アイデアとしては中々のものだ。

 私の行きつけは『続人間』というBar。もう40年近くの付き合いになる。

マスターはもう80歳近くになる。この仕事一筋で50年というから、宮崎の草分けのバーテンダ-だ。奥様と2人でやっているが、奥様の作るつまみの『チーズのから揚げ』は最高に美味く酒が進む。その店の入口の所に、カクテル十傑というプレートが掲げられている。それは上から“マティーニ、マンハッタン、アレキサンダー、サイドカー、ブロンクス、ギムレット、バカディー、ミリオンダラー、スティンガー、オールドファッション”と10種類である。若い時マスターにこれ全部飲みたいんだけどと言うと、呆れた顔をして「これ全部ですか?止めた方が良いと思いますけど…。」そう言われると益々飲みたくなる。

 だってあんな小さなグラスに入っていて、しかも甘いので大したことはないはずだ。どんなことがあっても飲みたい。そう思いマスターにお願いすると、「どうなっても知りませんからね。それでも良いですか?」そこで元気良く大きな声で「ハイ!」と答えた。そうすると手慣れた手つきで次々とカクテルを作り始めた。カクテルは一種類につき大きなお猪口1杯分位の量だ。これなら10杯位楽勝!と思った。1時間も掛からず全部飲み干した。だが何ともない。マスターが「大丈夫ですか?」と気を遣っているが酔っていないのだ。「マスター、もう帰るよ」と言って胸を張って外へ出た。記憶があるのはそこまで。そこからは全く記憶にない。

 後日又その店に行ったらマスターが「どうでした?大丈夫でしたか?」と話かけてきた。「いや、この店を出た時から記憶がないんです」と答えると、「やっぱりね…。だってウイスキーのボトル半分を一気に飲むようなものですから、普通の人はひっくり返りますよ…」そうなのか、やっぱり甘いカクテルに騙されてしまうのだ。(格言:気をつけよう、甘い言葉と甘いカクテル)

 最近では、マティーニ1杯飲むだけで次の日は二日酔いになる。やはりかなり酒に弱くなったみたいである。それでもBarの雰囲気が好きで今日も繁々と通う。実を言うと、宮崎には女性バーテンダーが多い。しかも美人揃い。それも行きたくなる理由かもしれない。