ある人がこう言った。「レストランで食事をしている男女が夫婦であるかどうかの見分け方、僕は知ってるよ」「えっ!そんなの分かる訳ないでしょ」と私が答えると彼はこう言った。「それは会話の密度を見れば分かるよ」。
確かにレストランで仲良く話をしているカップルはほとんどが恋人同士か、ちょっときわどい関係のカップルだ。それはお互いの事をまだよく知らないし、だからこそ知ろうとする。そういう時に会話というものは最低限のツールと言えるだろう。相手の事を知りたい、知ればもっとそれ以上の事を知りたい。それが男女の生まれてからの本性なのだ。
一方、結婚するとどうだろう。それまでいろんな謎を知りたいと思っていたのが、一緒に暮らすことにより、その謎が少しずつ解けてくる。つまり手品のネタがバレてしまうという訳だ。
いつも気だるそうな色気あふれる眼差しだったのが、単なる寝不足の顔だったり、いろんな料理のレシピには詳しいはずなのに、料理を作らせるととんでもない味だったり、ワイルドな性格の夫が実はDVで暴力をふるったり、子供大好きと言っていた人が子づくりは嫌だと言ったり、とにかく結婚する前と後とでは大きく違う事も多い。だから結婚した先輩は「結婚までは両目を大きく開いて見つめよ。しかし結婚したら片目はつぶれ」とアドバイスするのだ。
全くあかの他人同士が結婚し夫婦になるのだから、そこに沢山のミスマッチが生まれるのは当然だ。例えば読書が趣味な人にとっては、本を読まない人の事が理解出来ないだろうし、料理の味付けにせよ、いわゆる『おふくろの味』というものを夫は期待している訳だから、その味に程遠い味であればがっかりし、それだけで離婚の理由になるかもしれない。
一方、妻の方は家に夫が帰って来たら、子供の事や将来老いた時の話をしたくて、うずうずしている。又少しはゴミ出しや風呂洗い、買い物など主婦の仕事の手伝いをして欲しいと思っている。しかし現実は夫はプロ野球を見ながらビールを飲み、メシを食べ風呂に入って「明日、早いからもう寝るぞ」と1人で寝入ってしまう。そこには会話は成り立たないのだ。
レストランで口をきかずに黙って食事をしている男女は、100%夫婦だそうだ。話す内容は沢山あるはずなのに、話す必要がない。ただその日が結婚記念日だったり、妻の誕生日だから仕方なく食事に出かけているのだ。つまり義理を果たすだけが目的なのだ。
残念ながら私達夫婦もそうだ。しかし最近は少し違う傾向が見え始めている。私は今年還暦。家内も2年後には還暦を迎える。今まではお互いに1人でも生きていける様な気がしていた。夫婦喧嘩も沢山して、何でも食べる愛犬『ロキ』でさえ、「夫婦喧嘩は私(犬)でも喰いません」と毎日ぼやいていたに違いない。しかし最近はようやく、お互いが大事なパートナーだという事に少し気づき始めた。
人という字は、人と人という字が組み合わされて人という字になる。まさに夫婦というのはこの『人』という字の関係なのだと思う。
6月4日は『虫歯予防デー』の日であるが、私達夫婦の出会った日でもある。知り合って約40年。そろそろ人生の最終コーナーにさしかかる。これからもいろいろ山あり谷ありの人生が待っていることだろう。出会った日の新鮮さを、2人共いつまでも忘れないで生きていきたいと思う。