日本では1年の区切りとして年度末という独特の風習がある。新しい年が始まる1月1日から12月31日までを区切りとせず、4月1日から3月31日までを一つに区切りとする方法である。
3月になると至る所で道路工事が始まる。それは年度末まで予算を使い切らないと来年度の予算が貰えないからだ。その為に素人の目には工事する必要のないように見える道路でも工事をしている。
学校も4月から新学期だ。4月になり学校が始まると、ランドセルを背負ったピカピカの新1年生を街中で見かける。遠くから見ているとランドセルだけが上下に揺れ、まるでランドセルが走っているように見える。会社でも新入社員が入社してきてフレッシュな感じになる。転勤などで4月から新しい所へ引越しをしなくてはならない。それは4月になると新しい生活が始まるということである。つまり一つの区切りをつけるということだ。
しかし例外もある。それは出生日である。4月1日から学年が変わると思いきや、4月2日生まれから学年が変わるのだ。たった1日違いで学年がかわる。小学校に入るまでの1年の差というのは大きい。考えてみればおぎゃーと生まれた赤ちゃんと、ヨチヨチ歩きの出来る1歳の子どもが同じ学年になるのだから、そのハンディは大きい。
そこで出来たら4月2日以後に生みたいというお母さんが多い。4月2日以後に生みたいので、3月末から4月初めが予定日の人は、どこへも出かけず家でゴロゴロしているという。かと言って4月2日以後急にお産ラッシュになるかというとそうでもない。中々計算通りにはいかないのだ。
一昔前までは、3月に生まれたのに、出生届けを4月2日以後に書いてもらったという人の話をよく聞く。先日会った年配の方も「親が産婆さんにお願いして1週間遅く書いてもらったの。だから私には2つの誕生日があるんですよ」と複雑な表情で語ってくれた。今はそんなことは絶対出来ない。
しかし中には「何とか出生届を4月2日以後と書いて下さい」と頭を下げる方もおられる。だがそれは絶対に出来ない。何故なら公文書改ざんということになり罰せられるからだ。
いずれにせよ、3月でも4月でも無事に元気な赤ちゃんが生まれますようにと産婦人科医の私としては祈っている。