それは一瞬の出来事だった。あっと気付いたら体が宙に舞っていた。用事を済ませ、自宅に帰る途中だった。見通しの悪い小道から、高校生の乗った自転車が急に右から飛び出し、避ける間もなく私の自転車の前輪に激突したのだ。私の自転車は吹き飛び、私の体だけが宙を舞った。

 気が付いたら右膝から、体を180度位回転する様にコンクリートの道路に叩きつけられていた。高校生は申し訳なさそうに駆け寄って来て「大丈夫ですか?」と心配そうな顔をして覗き込む。たいした怪我もしてなさそうだし、1人で起き上がれたので「大丈夫、大丈夫。君の方は?」と尋ねると、「私の方は大丈夫です」と言う。そりゃそうだ。彼の方は転倒する事も無かったのだから…。心配そうな顔をする彼の方に向かって、「心配しなくても良いよ」と何もなかったように言い、足を引きずりながら帰宅した。

 家に帰ってズボンを脱ぎ右膝を見てみると、擦傷がある。3、4年前バイクで転倒した傷のちょうど上である。家内がそれを見て「前の所と一緒じゃない。同じ所なのであまり傷も分からないわね」なんてのんきなことを言う。同じ場所で目立たないかもしれないが、痛いものはやっぱり痛いのだ。

 次の日、やたら体の節々が痛い。左手首をグルグル回すとイテテと大声を上げそうになる。又首や体中の筋肉も痛いのだ。多分体を180度位ねじって転んだせいなのだろう。

 実は自転車ごと吹っ飛んだのは3回目なのである。1回目は夏のある日「ビアガーデンに来ませんか?」というお誘いに、2つ返事で大急ぎで出掛けた時。この時は街路樹を抜いた後の穴に、夜暗くて気付かず突っこみ、本当に1回転。顔面を強く打ち鼻の先を道路で擦り、鼻の先が赤鼻のトナカイみたいになった。

 それよりももっと酷かったのは、前歯をハンドルでぶつけ、2本とも折れてしまった事である。もうビアガーデンどころではなく、すぐに救急病院に担ぎこまれた。その日以来、前歯は差し歯になってしまったのである。

 もう一度は犬の散歩に自転車で行った際、急に犬が引綱を強く引いたため転倒。この時もひっくり返り、頭をコンクリートの道路にぶつけ、目から火花が出そうになった。

 最近自転車の事故が増えているという。約6年前、近くの橋で自転車に乗った人が下り坂を下っていた時に、ちょうどそこを歩いていたお年寄りと衝突。お年寄りは頭を強く打ち亡くなった。亡くなった方も、まさか朝の散歩中にぶつけられ死ぬとは思わなかっただろう。加害者の方は自転車は車と違い保険がないので、数千万円の補償を工面することが出来ず、買ったばかりの家を売り工面したという。

 さて高校生にぶつけられた私の自転車は、幸いなことに前輪だけが左側に30度位歪んでしまっただけだった。近くの電柱で5~6回ガンガンと前輪をぶつけたら、なんとか前輪は真っすぐになった。 たかが自転車と思っていると、思わぬケガをしたりさせられたりすることがあることを再認識した。これからはやはり充分気をつけて自転車に乗ろう。

 最近は自転車で人にぶつかって怪我をさせたりした時の保険も沢山ある。例えばサイクル安心保険は年に1230円で最大1億円保障。ドコモサイクル保険は月々450円で5億円まで保障する。但し年齢制限が69歳までというのがいくつかあるので、注意が必要だ。しかし中には70~89歳までの高齢者向けのau自転車向け保険があり、これは6060円で最大2億円まで保障するというからお年寄りには安心だ。

 とにかく自転車に乗る時は充分気を付けなくてはならない。