20年位前、家内のプレゼントに年齢の数だけ真っ赤な薔薇を贈ろうと考えた。
そこで花屋に電話をし、特上の薔薇を秘かに取り寄せた。
その日の夕方仕事を終え、家に帰ると、早速その薔薇の花束を家内に手渡した。
「わ~綺麗!本当にこれ私がもらっていいの?今まで生きてきて、
一番嬉しいプレゼントだわぁ。早速、とびっきり上等な花瓶に生けるわ。
本当にありがとう!」と言ってもらえるはずだった。
ところが、「えっ、これ私に?一体これ一本いくらしたの?なに?200円もするの。
40本あるから8千円もしたのね。そんなお金があったら、
子供の服が何枚買えると思ってるの!何せ子供が5人もいるのよ。
もっと倹約してくれないと、やっていけないというのに、こんな花にお金をかけて…。
しかも私は花を貰うんだったら絶対コスモスがいいんですからね!
私が死んだらコスモスの花をお墓の周りに植えてってあれほど言ってあったでしょ」。
ならばと、次の年はコスモスを贈ろうと心に決めた。
そこで誕生日の数日前に花屋にコスモスを注文した。
ところが花屋は「コスモス?今の時期にですか?」と怪訝な顔をされた。
「そう。高くてもいいから、とにかくコスモスが欲しいので持ってきて」とお願いするが、
花屋は首を振るばかり。どうしてそんなに首を振るのだろう?と思っていると、
「今頃コスモスなんてまだ出回ってませんよ。10月に入れば手に入るんですがねぇ」。
だが、10月まで待ってはいられない。
何せ9月2日が家内の誕生日なのだから、10月に入ってでは困る。
「宮崎には今の季節はないので、とにかく全国の花屋に電話して聞いてみます」と、
2~3日して花屋から電話があった。「何とか探し出せましたから用意出来ますよ。
しかし高いですよ。何せ今頃のは、ハウス栽培のものですからね」。
誕生日当日、ようやく届いた花を得意気に家内に手渡した。
今度こそ「あら、覚えててくれたのね。私がコスモス好きだってことを!
本当あなたって素敵な人ね!」なぁんて言われると思っていたら、
「あら、コスモス。今の季節に珍しいわね。どこで見つけたの?」と。
ハウス物でようやく探し出した事を告げると
「あら、私コスモスって何気なく野原に咲いているのが好きなのよ。
こんなハウス物なんか何か不自然で嫌だわぁ」と言う。
ちゃぶ台が近くにあったら
「何だコノヤロー!このオタンコナスが!せっかく苦労して手に入れたのに…」
と叫びながらひっくり返したかもしれない。
次の年からコスモスを贈るのをやめた。
こんなに苦労しているのに、家内には分かってもらえないと思ったからだ。
先日、知り合いからコスモスの種を頂いた。
家内がコスモスが好きだという事を知り、わざわざ持って来られたのだ。
いつかこの種を我々夫婦の墓の周りに蒔こうと思う。
そうすればいつもコスモスの花に囲まれ、家内の希望も叶えられるというものだ。
風に吹かれ、可憐に揺れるコスモスの花を見ながらそう心に強く誓った。