これまで自分自身、病気、手術を何度も経験してきた。例えば高2の時、虫垂炎(いわゆる盲腸)になったことがある。何となく吐き気がして溝落ちが痛い。最初は、胃の調子が悪いからだろうと様子を見ていた。しかし段々お腹が痛くなる。それも右側の方である。
そこで当時医学生だった兄に診てもらった。盲腸の辺りを押さえてパッと手を離す。普段は何ともないのに、その時ばかりは刺し込む様な痛みが右下腹部に走った。当時はそれが何の診断法であるかなど知るよしもなかった。次の日叔父の外科医院で手術。一週間ほど入院していた。後に医学部に入学後、あれが「ブルンベルグの徴候」という、虫垂炎かどうかの診断法であったと知った。
2度目は、医学部を卒業する前の年だ。左側鼠径部が痛くなった。よく見ると、左の睾丸がソフトボール位に腫れている。右に比べると5倍位大きい。翌日大学の泌尿器科を受診した。生まれて初めて内診台に上がった。それは産婦人科にある内診台と全く同じもので、カーテンが申し訳程度に引いてある。
パンツを脱ぎ、恐る恐る内診台に上がった。カーテンの向こう側はスタッフの通路になっていて、大勢のスタッフが行き来している。その中には一緒に実習した同級生もいた。泌尿器科の先生が私を診察しながら、学生達に説明している。「これは立派な陰嚢水腫です。これから注射器で中の液体を抜きます。はい、注射器下さい」と近くのナースに声をかけていた。ちらっとその注射器が見えたが、それはまるで茶筒位の馬鹿デカイ注射器である。
「ちょっとチクッとしますよ」と言うや否や針を刺された。その量は500ccもあった。「又溜まりますから、その時は今日と同じように抜きますよ」と先生に言われた。針で刺されたのはあまり苦にならなかったが、あの内診台の上だけは乗りたくないと思った。その後、鼠径ヘルニアの嵌頓を起こし緊急手術となった。
3度目は、県立病院で勤めていた時である。夏期休暇をもらい、インドへ旅に出た。帰国してからどうもお腹の調子が悪い。トイレに何回も行くのだが、柔らかい便が出た後もシクシクとしたお腹の痛みがあり、それが一日中続く。一日の大半はトイレの中である。変だなと思っていたら保健所から電話があり、一緒に行った仲間が赤痢になっているから検便するように言われた。検便の結果は何と陽性。隔離病棟で1ヶ月以上も入院生活を送るハメになった。
今から10年位前、下腹部の左側が何となく痛い。お腹の中の痛みかと様子を見ていた。そのうちにどうも皮膚がピリピリ痛むのに気付いた。自分のお腹を注意深く触ってみると、ちょうど臍の左右で感覚が違う。右の方は普通なのに、左下腹部が臍の下からまるで定規で線を引いたように違和感がある。どうも左下半身だけ限局的に変な感じなのだ。診察はどこへ行けば良いのだろうと考えていた。
次の日、もしかしたら帯状疱疹かもしれないと思い、皮膚科に行った。すると思った通り、帯状疱疹という診断だった。やった!!と自分の診断が的中した事を単純に喜んだ。それにしても、自分の病気を診断するのは本当に難しい。