臍は人間の体の真ん中についている。それは母体内で胎盤とつながっている臍の緒のなごりだ。臍の緒は長さ50㎝位あり、太さは小指位である。赤ちゃんがお母さんの体内にいる間は、その臍の緒を介して沢山の酸素がお母さんから供給される。その為に、臍の緒はかなり頑丈に出来ている。この臍の緒が圧迫されると、酸素が充分に赤ちゃんに行き渡らず、赤ちゃんの元気がなくなる場合もある。

 よく臍の緒が巻きついているのではないかと心配される方がいる。実際には、3人に1人位の割合で、臍の緒が首に巻いている。だからと言って、多くの場合心配することはない。中には長いマフラーを巻く様に何回もグルグルと巻いているケースもある。先日、4回も首に巻いていたケースに遭遇したが、特に心音も低下せず、そのまま元気な赤ちゃんがスルリと生まれた。

 しかし、タスキがけに巻きつけていたり、手足に巻きついていた時はやはり心音が下がり、赤ちゃんの状態が悪くなることがある。その為、緊急の帝王切開になることもある。最近ではどこの病院にも分娩監視装置というのが置いてあり、お腹の中の赤ちゃんが元気かどうか分かる様になっている。その為、一昔前に比べるとお産も随分安全になった。

 また、羊水が少なくなっても、陣痛の時に臍の緒が圧迫され、赤ちゃんの状態が悪くなることがある。特に赤ちゃんが小さい場合は、ちょっとした圧迫でも心音が下がることがあるので要注意だ。

 赤ちゃんが無事生まれ、オギャーオギャーと泣いたらもう臍の緒は必要なくなる。生まれたら、臍帯に胎盤から送られていた血液が必要なくなるからだ。

当院では立ち会い出産を推奨しているのだが、お父さんに当院のスタッフと一緒に臍の緒を切断してもらっている。見ためにはフニャフニャしていて、脆そうにみえる臍の緒だが、実際ハサミで切ってみるとその硬さにお父さんはびっくりされる。一回で簡単に切れると思ってハサミを入れるが、、4~5回でようやく切断することが出来る。

 臍の緒を切った後お父さんの役割を果たしたという満足感と、お父さんになったんだという実感がジワーと沸いてくる。父性というものを一番最初に感じる瞬間なのだ。だからこそ、この儀式は大切だと思っている。

 残りの臍の緒は、しばらく赤ちゃんのお臍の所にくっついている。だが4、5日もすると、乾燥してポロリと取れる。日本人はその臍の緒を桐の小箱に入れ、タンスの中に大切にしまっておく習慣がある。しかし、これは日本だけの習慣で外国では行われていない。

 だから、外国人の方に臍の緒を桐の箱にいれて渡そうとすると「そんな、ハナクソみたいなのは要らないから捨てて下さい」と言われる。確かによく見ると、それはちょっと大きめのハナクソにみえる。外国人の方の目には、その程度にしかうつらない臍の緒を、日本では大切に保存し、昔は子供が病気になったときに煎じてそれを飲ませていたという。

 臍の緒を病気を治す薬と見るか、ハナクソと見るか、同じ人間でも見方が違うというのはおもしろい。

 ところで、先日風呂に入り、臍を見たら臍の中が黒くなっている。何かな?とよく見たら、どうやら臍のゴマらしい。女性と違って男性は普段臍の手入れなんかしないし、皮フの一部やゴミが臍の穴に貯まっていても気がつかない。しかし、それにしても大きいので綿棒でいじくってみた。しばらくやっていたが、お腹が痛くなったのでやめた。

 次の日シャワーを浴びていると、ポトリと床のタイルに落ちるものがある。ミカンのヘタ位の大きさがあり、黒い。よく見ると、それは臍のゴマだった。一瞬、それを臍の緒のように大事に記念に取っておこうと思った。しかし次の瞬間、シャワーで洗い流した。どう見てもそれはハナクソにしか見えなかったからだ。それはちょっとした未練を残し、排水溝に姿を消していった。