投稿欄を読んでいたら、92歳になる老人の投書が載っていた。
デパートで買い物をしていると、後ろからやって来て、肩を叩く者が居る。振り向くと親友が「久しぶりじゃのー」とニコニコしている。
毎年開催していた同窓会も86歳の頃で止めたが、彼は最後の最後まで付き合ってくれた一人だった。
ところが最近、彼に会うと「オイ、お前は誰じゃったかの?」。私は驚いた。あの、記憶力抜群の秀才だった彼が、私を忘れてしまっているのである。
「俺だよ、俺。お前と同級生で80年近くも一緒だったじゃないか。」
「あ、そうか。お前じゃったのー」
話が弾んで帰ろうとすると、彼が又「あんた、誰じゃったかな?」と言う。
「俺だよ、俺。もう80年近くも付き合っているじゃないか」
「そうじゃった。あんたやったね」と。この繰り返しである。俺もいつかこんな風になるであろうかという投書である。
私達夫婦も結婚して50年近くなり、金婚式も近付いてきた。自分達でもやはりもの忘れがひどいということを実感する。例えば「あのね、この前あそこに行ったでしょ!あそこの店のケーキ美味しかったわね」「そうだったね。あんなに美味しいケーキ初めて食べたね」「材料は何で出来ているのでしょうね」「それはあれに決まっているでしょう。だから美味いんだよ」。
人間の脳には180億もの神経細胞があるそうだ。ところが、25歳を過ぎると、何と1日に10万個も死んでいき、二度と増殖も再生もしない。
年を取ると物忘れが酷くなるというのは、脳の神経細胞がどんどん減っていって、脳の中がスカスカになってしまう為である。最近では脳の神経細胞を保護したり、活性化させたりする新しい物質が発見された。
神経細胞保護因子と呼ばれるものがそれである。痴呆の原因となる脳細胞の減少をくい止める役目をしているらしい。でも痴呆にならない老人たちが増えたらどうなるのだろう。痴呆にならないから死への恐怖なども和らぐはずなのに、死ぬまで脳がはっきりしている。
そこまでしても人間は長生きしようと思うのであろうか。あと5年もすると日本の老年人口(65歳以上)と生産年齢人口(20~64歳)比があり1:2になる。
何とお年寄り1人支えるのに働き手が2人という超高齢化社会を迎えるのだ。はたして痴呆予防の特効薬が出来て、世の中が明るくなりますやら。