先日一枚のハガキが届いた。
『秋冷の候、皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、あなたが前回胃内視鏡検査を受けられてから1年が経過しましたので、再検査をお勧め致します。
2007年の県内の癌による臓器別死亡者数を見てみると、胃癌は男が2位、女は3位を占めております。
定期的に胃の内視鏡検査をしていれば安心です。又、大腸癌も増えています。女性では1位、男性では4位です。
是非、全大腸内視鏡検査も受けましょう。当院では胃と大腸の内視鏡を同日に済ます事も出来ます』。
かかりつけの病院からだ。
 3年前、飲み込み時に何かつかえた感じがあり、生まれて初めて胃カメラ検査というのを受けた。
その時、食道に気になる所見があるという事で一部組織を切除した。何度もゲーゲーとなりながら涙目になり診てもらった。
胃カメラって大変な思いをしなきゃいけないと聞いていたが、まさにその通りだった。
去年も定期的に検査が必要だという事で出かけた。昨年は前の年に比べると組織検査もなく楽だった。
あまりに嬉しくて検査後ベッドに横になりながらメールで娘に写真を送った。すると娘から「お父さん、余裕だね」
というメールが返ってきた。
 今年は夏位から胃もたれがひどく、何を食べてもその後に胃薬を飲まないといけなかった。
それでそろそろと思っていたが、異常があると言われるのが怖くて延ばし延ばしになっていたらこのハガキが来たのだ。
 前の晩、やはり異常があると言われ手術をすぐしなくてはいけないという事になり、
もうこれが最後の晩餐になるのではないかと思い、行きつけの店で美味しい刺身を食べ、
日本酒を4~5本飲み、もうこれで思い残す事はないと思った。先生からは「9時までは食べていいですけど、
その後は食べちゃダメですよ」と釘を刺されていたのだが、もうすでに10時近くになっていた。
店のマスターが「谷口さん、店の時計が壊れて9時を針がさしているので9時だと思ったと言い訳したらどうですか・・・」と言う。
でもどう見ても10時前なのだ。
 朝一番8時30分に出かけて行った。するともうすでに患者が2人待っていた。
何で来たのかと思って聞き耳を立てていると、どうやら大腸の検査らしい。
「最近の腸の検査の時に飲む液体、ずいぶん飲みやすくなりましたね。昔はひいこら言いながら飲んでいたんですがね・・・。
いつも思うんですが、あれがビールだったら簡単に一気に飲めるんですがね・・・アッハハ」。
ずいぶん大腸検査には慣れた様子である。そうしているうちに名前を呼ばれた。いよいよ検査が始まるのだ。
 検査室に入ると「ここへかけて下さい」と言われ座ると、マンゴー色のシャーベットをお皿に入れ看護師が入って来た。
「それではこれを食べて下さい」と言われ、え~!!食べていいの。
お腹ペコペコでちょうど良かったと思い手を出し、もしかした夢かもしれないとほっぺたをつまんでみたが痛い。
どうやら本当らしい。
(昨年は大きなドラヤキが目の前に出てパクついたら「何で食べるるんですか?」という声で目が覚める夢を見た)。
 ほおばってみるとこれが又冷たくて甘くて美味しい。4カケラくらいしか入ってないので、
もっと欲しくて「おかわりはないんですか?」と尋ねたら、あきれたような顔をされたので、そのままお皿を返した。
その後、喉に麻酔スプレーを吹きかけてもらった。
初めの時はそのスプレーがお酒の大吟醸の味がしたので「もっと下さい」と言いたくなったのであるが、
今回はそんな美味しい味もしなくて、普通の本醸造の味だったのでつまらなかった。
 「ちょっと麻酔をしますから」と先生が言われた後、すぐに1ℓは入るような大きな注射器を看護師が持ってきたので
「何だそれは?」と言おうとしたら、そのまま隣の部屋に入っていった。どうやら先ほどの大腸検査の人に使うものらしい。
一安心した。検査は思っていたより早く終わった。やれやれと思い検査の結果を待った。
 しばらくすると診察室に呼ばれ説明があった。
「心配ありませんね。食道も胃の方もピチピチギャルのように若くて美しいですよ。
胃もたれの原因は胃が少し食道の方につり上がってますので、そのせいでしょう。
昨日は美味しい物を食べたようですね。少し食べ物の残渣物が残ってました」。
それを聞いて「やった~」という気持ちと、食べ物がやっぱり残っていたという恥ずかしさが混じり合って変な気持ちだった。
「来年こそは9時以降は食事をしないぞ」と心に誓って病院を出た。