辛子明太子は博多の名物である。数えきれないほどの明太子屋があり、その店々によって少しずつ味が違う。
無着色のものや、真っ赤に色が付いたもの、辛いもの、甘塩のものといろんな種類がある。
それを使っての料理法もさまざまだ。おにぎりの具にもなり、スパゲッティーにも合えて食べる。
ピザパイの具としても美味しいし、マッシュポテトに混ぜてもいい。豆腐の上に乗せて食べる事もある。
マヨネーズと混ぜ、たらこマヨネーズとしてパンにつける。お茶漬けの中に一切れ入れかき込む。
そのまま大根おろしの上に乗せて、酒のつまみにする。そのバリエーションは驚くほどある。
それぞれに明太子の味が生かされていて、美味しい一品と変身するのだ。
 信じられない事だが、辛子明太子は昔から日本にあった訳ではない。
60年前、朝鮮半島に住んでいた日本人が、
タラコの唐辛子入りの塩漬けを食べていたのを美味しいと思い、それを戦後帰国した人が、
日本の調味料に漬け込んだ所、とても評判になった。そこで『辛子明太子』と名付け売り出したのだという。
その後しばらくは博多だけで販売されていた。
 全国的に食べられるようになったのは、意外な事に今から30年位前の話だという。
博多まで新幹線が延び、爆発的に全国に広がっていったという。
ちなみに家内の実家は秋田であるが、毎年お歳暮は辛子明太子と決めている。
塩気の強い食べ物を好む東北人には、特に好評なのだ。
 カラスミはボラの卵から作られている。秋から冬にかけ、ピチピチしたボラのお腹を開くと、
大きな卵の粒がお腹一杯入っている。それをまず血抜きをして、水気を拭いて、粗塩に約半日漬ける。
やがて水分が抜け硬くなる。次に焼酎に5~6時間漬け塩出しをする。
それをステンレスのバットなどに1~2時間挟み、それを干物用のカゴの中に入れ数日間陰干しする。
その表面に紹興酒を塗り、ツヤと風味をつけ出来あがりだ。
 小料理屋さんにはこの季節になると、店の奥の天井からカゴがぶら下がって、
その中に製作途中のカラスミが入っている事もある。カラスミを薄くスライスし、
やはり薄くスライスした大根に挟んで食べる。これ又、美味である。
 東京の上野のアメ横などに行くと、スジ子を売っている。これはサケの卵で、それをバラバラにしたのがイクラである。
それを醤油漬けにしたり、塩漬けにしたりして食べる。私はこのイクラと韓国のりと玉子を白いご飯に乗せ、
食べるのが大好きである。
 ウニを食べる時忘れがちなのが、食べる部分は卵巣であるという事である。
寿司屋で軍艦にしても美味しいし、そのまま海苔に乗せて食べでも美味しい。
おそらく寿司屋ではトロの次位に人気があるのではないだろうか。
 シシャモは最近スーパーで輸入物が安く売っている。カラフト産は10匹入っていても300円位なので、時々酒のつまみに買って帰り、
少し炙って食べる。国内では北海道の日高で獲れるシシャモが有名であるが、何せ高い。
オスとメスとは値段が何倍も違う。メスのシシャモは高いものは1匹で500円位もする。我々庶民にはとても手が出ない。
 さて、辛子明太子、カラスミ、イクラ、ウニ、シシャモ、全て食べる部分は卵巣部分である。普段はこれらを美味しい、
美味しいと何も意識せずに食べているが、もし我々が食べなかったら、この卵達は海の中で稚魚として生まれ大きく育っていたに違いない。
それを美味しい、美味しいと食べるなんて考えてみたら何と残酷なことなのだろう。
 それを食べなければ、将来それが大きくなり、次世代に命を託す事を考えると、
本当に「申し訳ありません」と言いながら食べなくてはならないのかもしれない。
お産に立ち会う我々産婦人科医にとっては、特にそう思いながら食べなくてはならない。そう思う。