院内の食事は、厨房のスタッフが心を込めて手作りしている。入院している患者の皆様に「美味しい!」と言って頂けるよう、四季折々の工夫を凝らしている。因みに当院は普通の病院みたいな月ごとに決められた給食メニューというものはない。その日に美味しい食材があればそれを使い、旬の物があればそれを使うので、その日の朝にならないとメニューが決まらない。入院患者の皆様から「是非レシピが欲しい」という要望があるのだが、そういう訳でそれを作るのはちょっと不可能なのだ。

 私も美味しい給食を作ってもらう為に、色々な店を巡っては美味しい味を探している。一時期はその為に一年間料理教室に通った。そこで色々な料理の基本を学んだ。男にとって料理というものを作るというのは実に新鮮なものだ。何故なら殆ど料理をすることなど経験することがないからである。

 最近はコンビニなんかでも、電子レンジでチンするだけで結構美味しいものがあるので、益々料理をする機会は少なくなるという世の中である。しかし料理は楽しくて、奥が深いものである。

 料理番組などは録画してそれをメモする。最近面白いと思ったのは、「オクラは輪切りにして茹でるともの凄く粘りが出るということ。」「レモンは輪切りや縦切りではなく、斜めに切ると果汁がほとばしる。」「素麺は梅干を入れて茹でると美味しい。」などそれをすぐにメモし、厨房のスタッフにいかにもベテランの料理人がアドバイスするみたいに教えるのだ。とにかく美味しいものを食べてもらうということは、何よりも人を幸せにする。

 だから時々、外来や病棟の仕事の合間をぬって厨房に顔を出す。昼の食事は必ず試食する。出来上がったら呼んでもらい、お皿や盛り付けをチェックする。料理にお皿が映えなかったり、色合わせが悪い時は手直しをしてもらったりする。

 基本的には赤・緑・黄・白などの色がバランスよく配置されていれば良いのだが、気に入らない時は、旗のついたツマヨウジや紙ナプキン、小さな置物などを添えることにしている。

 又、野花を摘んで来て、小さな花器に生けてはお膳に飾ることもある。入院中は、とにかく四季を感じにくいものだ。一輪の花がホッと心を和ませてくれるかもしれない。そう思って、当院では開業以来続けている。私も、愛犬『ロキ』との散歩のついでに、アザミや菜の花、レンゲ草などを摘んで持ち帰ることもある。花がない時は玄関の花壇の花を利用することもある。あるいはスタッフが自宅の庭から花などを持って来てくれることもある。

 料理に映えるのは花だけとは限らない。意外と活用できるのが植物の葉だ。大きな葉の上に料理を盛ると、それはシャレたお皿に変身する。ハワイなどでは、椰子の葉やタロイモの大きな葉っぱを広げ、お皿代わりにするというが、本当にオシャレだ。

 日本料理も、またしかり。さり気なく、しかし巧みに植物が使われる。お赤飯の上に乗せる南天、お寿司の葉蘭、松葉。チマキを巻く葉っぱ、宮崎では『あくまき』などに竹の皮などを用いることもある。

 日本料理には紅葉したもみじをよく使う。四国のある村では、お年寄りが山奥まで入り、木の葉を集めてビジネスにしているところもある。その売り上げは年間20億円以上にもなり、村一番の名人は80歳近いのに、年収1000万円近いというから驚きだ。

 夏は緑が旺盛に育つ季節だ。山を散策する機会があったら、青々と美しい葉を探してみるとしよう。因みに、今日のお昼は、カンナの葉をお皿代わりに添えた。彩りもよく、目も楽しめ、“花を添える”とはよく言うが、まさにこのことだ。