入院中の楽しみ。それは給食だろう。
開業して25年になるが、当院では入院している妊産婦の方々に美味しい食事をと、
厨房のスタッフ5人が腕によりをかけて毎日奮闘している。
普通病院食には、週単位、月単位でメニューがあるのだが、当院には開業以来メニューというものがない。
その日の美味しい食材を仕入れ先に電話で尋ね、持って来てもらうからだ。その為、
本当に今が旬というものが給食で出される。
例えば野菜。今からは『空飛ぶ玉ネギ』という少し大きな駒形をした玉ネギがサラダや
オニオンスライスという形で出される。普通より甘味が強く本当に玉ネギ本来の味を楽しめる。
果物も『たまたま』と言われる2~3月が旬の一回り大きなキンカンを使う。甘味が強く、
酢の物にしてもその味はピカイチである。イチゴなども一回り大きな見栄えのいいものを使う。
週に1~2回はアボガドを使ったサラダを出している。私がアボガド大好き人間で、
自分でアボガドを食材店まで買いに行くのだが、アボガドとサーモンとトマトをゴマドレッシングで混ぜた
サラダは当院の看板メニューの1つである。実に美味しい。
肉は地産地消という事で、国産の肉を使用する。中国ぎょうざ、ミートホープの事件以来、
食に対する安全・安心というのが揺らいできている。
そこで、国も厳しい規準をもうけ、牛肉に関してはその肉1つ1つに、バーコードがついていて、
どこで育てられた肉なのかが分かる仕組みになっている。一昔前と比べ、食肉体制が変わってきている。
米国やオーストラリア産に比べ、かなり値段が高いが、それでも安心して食べていただければ安いものだ。
米は特別の配合米というのを使用している。今はえびので獲れる『ヒノヒカリ』という種類の米を使っている。
ご飯を炊くのも流行の高級炊飯器である。これだと本当に米がふっくらと実にいい味に仕上がる。
ご飯好きな日本人にはたまらない味だ。
毎週火曜日、給食は日本産小麦100%の『らいふのぱん』という店のパンを出す事にしている。
それはホシノ酵母、国内産小麦、塩、砂糖で出来た天然酵母パンだ。
月曜日の夕方に『らいふのぱん』のミニバンが病院までやって来る。軽く焼いてトーストにすると、
本当にパンのうまさを実感出来る。サクサクしていて美味しいのだ。
水も開業当初は綾の湧き水を定期的にポリタンクに詰め持って来てもらっていたが、
今はその当時に比べ浄水器も発達したので、水は全て浄水したものを使っている。
退院前日には、家に帰っても、育児を頑張って欲しいという気持ちを込め、
豪華なステーキディナーを出している。柔らかくて美味しい。それにパイナップルを半分に切り、
その上にメロン、スイカ、バナナ、リンゴ、キウイフルーツなどをてんこ盛りにしたフルーツのデザートが付く。
手の込んだ一品である。それにフランスのボルドーのワインを小さなグラスに入れお出しする。
朝、まずやる事はお皿選び。お皿は私がいろんな店で選んで買って来るのだが、
どのお皿が一番見栄えよく見えるのか重要な仕事なのだ。その後何回か厨房に行って味見をする。
配膳前には必ず厨房へ行き、盛り付けを確認しカメラに撮り、ようやく病室へ運ばれて行く。
昼、夜は給食の検食を必ず行なう。その日のメニューは大学ノートに書かれ、私の机の上に置いてあり、
私が夜にその日の食事の盛り付け、味、バランスなどを評価する。常に真剣勝負なのである。
お昼のお膳の上には花が一輪小さな瓶に飾ってある。
今の季節は庭に咲いているパンジーや椿やビオラなどを添えている。時々は朝、愛犬『ロキ』との散歩の際、
小さなハサミを持参し、大淀川の堤防に咲いているスミレや名も知らぬ花などを摘んでそれを飾ったりもする。
こんな風にして、かなり大変な思いをしながら給食を出すのであるが、私は全く苦にならない。
何故なら入院の患者様に喜んで頂けるから。そして私もそのオコボレに預かれるから・・・。