何年か前、スーパーの店頭から納豆が消えたことがある。というのもTV番組で納豆にダイエット効果があると放送された。それを見た人達が買いあさったからだ。「ダイエット」と耳に入っただけで、すぐにスーパーに走る。その人達の様子が目に浮かぶ。かつてオイルショックで、トイレットペーパーを手に入れるのに血マナコになっていたのと同じなのだろう。それにしても「ダイエット」という言葉に素早く反応する日本人の生真面目さに驚く。そして又いかにダイエットに興味がある人の多いことか。
結局それが事実とは異なる報道ということが分かり、店頭には納豆が山積みになってあふれたという。まさか事実とは異なる報道とは知らず、これは売れるとホクソ笑み大量に注文したが、今度は真っ青になってこれを安売りしなくてはならないとなると、スーパーも大変だ。もしかしたら従業員全員がその納豆を持ち帰り、朝から晩まで一日中食べていたのかもしれない。だとすると迷惑な話だ。
納豆は室町時代から親しまれていたという。それが江戸時代になり庶民の食べ物になった。俳句などにも納豆を取り上げた句は多い。芭蕉は「山寺に寒さをたたく納豆汁」と読み、一茶は「朝露や室の揚屋の納豆汁」と読んだ。それ位日本人にとって納豆というのは食の中心にあるものなのである。
私は小さい頃納豆を食べた記憶はない。朝はパン食だった。食卓に納豆が上がることはなかった。学生時代、東京に住むようになってから納豆を食べるようになった。正確にいうと、食べられるようになったと言った方が良い。茨城に暫く住んだ時は、水戸納豆をよく食べていた。それでも学生時代、新婚時代に納豆が好きで納豆を沢山食べたという記憶はない。
宮崎に帰ってきてもあまり納豆は食べなかった。しかし納豆が小さなカップに入れられ、3個百円位で売られるようになってよく食べるようになった。というのも納豆をゴハンにかけて食べる時、納豆が指についたりするとベトベトして気持ち悪かったからである。それが小さなカップに入れられ売られるようになって、そんな心配もしなくてよくなったからだ。3個百円位という値段も魅力だった。
しかし納豆をよく食べる理由、それは何と言っても賞味期限が近くなった納豆が半額で売られていることである。普通買うと300円近くする高級納豆でさえ100円ちょっとで買えるのである。3個百円程度のものは50円位で売っている。カップ1個につき20円もしないのである。安いのでつい半額のを沢山買い求めて帰ってくる。すると家内が「又、買ってきたの?冷蔵庫の中は納豆だらけなんですから、ちゃんと食べてから買って来て下さい。でないと冷蔵庫の中が納豆だらけになってしまいますからネ。私の分は心配しなくてもいいのよ。私は私で毎週生協のを注文しているんですから…」と言う。そして冷蔵庫の中を開け「あら、これ賞味期限を一週間も過ぎてるわ」と指さす。それに対して「あっ、そう」と私はのんびりした口調で答える。
納豆は日本の代表的な保存食品なのである。だからこそ古代から日本人の食の中心でありえたのだ。冷蔵庫の中に入れなくても腐る物ではない。冷蔵庫に入れられた納豆なんて、賞味期限を1ヶ月過ぎてもヘッチャラなはずである。だからいつも買い過ぎてしまうのである。
「大丈夫。冷蔵庫の中の納豆は全部責任をもって食べるから…」と言うと、家内はほっとした表情で「納豆はダイエットに良いらしいわよ。どんどん食べてネ」。
「オイオイ、それはこの前のテレビの嘘の情報?」と尋ねると「とにかく何でも良いから冷蔵庫の中にあるもの全部片付けてよ。邪魔で仕方ないの!」と言い、部屋から出て行った。
先日放映されたダイエット効果のある納豆の食べ方は、20分間ずっとかき混ぜて食べるらしい。因みに、私みたいに5、6回混ぜた位では痩せないらしい。もっとも20分も納豆を必死にかきまぜれば、良い運動になり、痩せる効果が得られるのかもしれない。まぁ納豆は体に良い食べ物であることは間違いない。これからもどんどん食べようと思う。因みに私のする食べ方は豆腐の上に納豆を乗せ、混ぜて食べる。これが実に美味しい。一度トライしてみて下さい。