生まれて初めて全身麻酔(静脈麻酔)をされ、手術を受けた。とは言っても今まで全身麻酔以外では何度も手術を受けたことがある。
 高2の時お腹が痛くなった。当時医学部の学生だった兄に診てもらうと急性虫垂炎(いわゆる盲腸)との診断。すぐ手術となった。背中からの腰椎麻酔、まるで自分の足ではないような感覚を不思議に感じた。取り出された虫垂は小指位の大きさ(ふつうはミミズサイズ)でホルマリンに漬けにして大切にとってある。
 2回目の手術は左鼠径ヘルニア。時々痛んでいたが、歩けないような痛みで救急外来を受診したら、鼠径ヘルニアの陥頓。つまり腸が小さな穴から鼠径部外部に出てしまっていて血行障害を起こし壊死(腐ってくる)状態。緊急手術となり、これも腰椎麻酔だった。
 医師になって3年目。ディスコ最盛期。ダンスホールで華麗なステップを踏んでいたら、右足を挫いてしまった。痛いと思ったが捻挫だろうと家に帰り冷やしていたらどんどん腫れてきた。朝一番で整形受診。第5中足骨の骨折(いわゆるゲタ骨折)と診断。すぐ手術と決まり、手術場へ。この時も腰椎麻酔で意識はちゃんとあった。3つとも意外に時間がかかり、腰椎麻酔が切れて痛かったことを憶えている。しかし3回とも意識は普通にあった。
 今回の手術は足の静脈瘤の手術。1年前から段々ひどくなり、ふくらはぎ一面に静脈瘤が浮き上がってきた。そのうち足先は氷のように冷たくなり、ジンジンして寝る時も靴下が手放せない。夏でも足元にはヒーターが必要だった。専門家を受診するとオペしたほうが良いとのこと。しかも全身麻酔(静脈麻酔)。
 当日ドキドキするかと思いきや、オペをすれば良くなると思うと心は信じられない位落ちついていた。オペ室に入り点滴をとりC-PAPというマスク型のものを口元に固定された。その後は何も憶えていない。約2時間後「終りました」という声で目が覚めた。終わったという安心感が体いっぱいに広がった。
 私も今まで帝王切開など1000以上の手術をし、時には自分で麻酔をして手術していた。今回自分が手術を受けてみると、される側は終わると本当にホッとするものだとつくづく思った。
 今日の手術のやり方は足の下部からレーザーのワイヤーを入れ、血管を焼いていき、血流を遮断するという最新式の方法である。先日もテレビでその模様をやっていたが、中年の女性の患者はオペ後はスタコラ歩いて帰宅していた。「今は痛くないかもしれないけど、足の局所麻酔が切れたら痛くなりますよ」と脅かされていたが、全く痛みはなかった。
 帰る時もスタスタ歩けるのにはびっくりした。そしてもっとびっくりしたのは、つま先が全く冷たくないことだ。おかげでその日は久しぶりにゆっくりと眠ることができた。
 何か急に世の中が明るくなってきた感じがした。これでやりたいことが好きな時に出来る。そう思うと仕事も無性にしたくなった。やっぱり思い切ってオペしてよかった。術後生まれ変わり元気になった自分がここに居る。