産婦人科医の仕事。それはまず赤ちゃんを取り上げること。赤ちゃんが生まれる時は時間を選ばない。夜中であろうが休日であろうが、いつあるか分からない。お産の人の入院も無いのでのんびり出掛けようとしていると、妊婦さんが入院してきてすぐ生まれることも度々ある。

 そういう訳で産婦人科医の仕事の一つに、いつでもどこででも眠ることが出来るというのがある。眠ることに関しては、普通の人とは全く条件が違う。変な話どこででも眠ることが出来る人が産婦人科の名医と呼ばれているという位だ。

 私の知っている先生(今は故人)は、看護師の詰所の外から見えない所に自分の折り畳みベッドを置き、そこで寝起きしていた。そこが邪魔になる時は、分娩台の横に簡易ベッドを置き、簡単な仕切りをして寝ていたという。1人で年間1000人ものお産を取り扱っていたというから信じ難いことだ。(因みに宮崎県内では年間約9000人が生まれている)。

 そこで我々産婦人科医はいかに早く、深い眠りに落ちる事が出来るか、しかも起こされたら直ぐ目をパッチリ覚ます事を信条に掲げている。

 医者になりたての頃、毎週個人病院に当直に行っていた。その際いつも大きなボストンバッグを持参して行った。病院のスタッフからは、「今度当直に来る先生はもの凄い勉強家で、バッグの中には医学の本や雑誌が沢山詰まっている。当直に来ては当直室でその本を広げ猛勉強している」という噂が立った。でも実際は私専用の大きな枕が入っていたのだ。当直室に入ると、その枕をウヤウヤと取り出し寝ていたというのが真相だ。枕が変わるとぐっすり眠れないし、また眠れる時に眠っておかないと後が大変なので、毎回自分の枕をわざわざ持参していたのだ。それ位自分の枕にはこだわりがある。

 開業してからも安眠出来る枕を探し回っている。ある時は2層になっている枕が安眠出来るということで買い求めた。また、夏になれば頭が暑くなるので、頭を乗せるとヒンヤリ感が味わえるという枕を購入した。

 それに私は寝る時に何かに抱きつかないと眠れない。今までは布団を丸めてそれに抱きつく格好で寝ていたのだが、抱き枕の存在を知り、今はそれを使っている。サヤエンドウみたいな形をしていて、それに抱きついて寝る。抱き枕を手離せないのは、小さい頃母親に充分抱きしめられなかったからではないかとずっとコンプレックスを持っていた。しかし、南洋の方には竹で編んだ抱き枕があってみんなそれを使っているというから、『抱き枕=マザコン』ではないと分かり、今は堂々と使用している。まぁ、見方によってはピカソの裸婦みたいなグラマラスな形をしているので、心境はちょっと複雑なのであるが…。

 先月、又新しい枕を見つけた。通販雑誌の一番売れている商品にランクインされている枕で「メディカル枕」という商品名である。縦・横45×75cm、厚さは13cmの大きさでイタリア製の枕である。ヨーロッパでは色々な病院でも使われているという。

 注文したら直ぐに送られてきた。見た感じは普通の枕とあまり変わらない。どちらかといえば薄っぺらい感じである。騙されたと思って、その夜早速使ってみた。こりゃ良い、今までの枕とは全く違う。以来、これを使って毎晩熟睡している。

 家内はその枕を見て「ねぇ又、あなた枕買ったの?あなたも枕を集めるのが好きねぇ」。と言う。しかし、眠るのを職業にしている産婦人科医にとって、カ

ミさんの次に大切なものなのだ。(因みに値段は12800円もする)