ある病院の病室の軒先で、鳥の鳴き声がする。ベランダに出てみると、ヒサシの下に巣があり、ツバメの雛が4~5羽巣の中から黄色い口ばしを大きく広げ親から餌をもらおうとしていた。親は餌を捕まえると巣に戻り、子供達に餌を与えている。その姿を見ていると実に微笑ましい。あまりにも可愛いのでしばらく見入っていた。
数日後、その病院の待合室に入ると鳥の鳴き声がする。それはツバメの鳴き声と違う。ふとテレビの横の台の上を見ると、そこには人が近付くと鳴くセンサーが付いた鳥の置物があった。患者さんがその前を通る度に鳴く。その数、3羽。その鳥達が代わりばんこに鳴くのである。一度鳴き始めると、20秒位は鳴き続ける。3羽も一緒に鳴くとさすがにうるさい。人が前を通る度に鳴くので、その鳴き声が一向に止む気配はない。それは癒しではなくもはや騒音である。
話は変わるが朝早く、私の病院の横にある、自動販売機の飲み物を入れ替えする為に清涼飲料水を沢山積んだ車が来る。右に曲がる時「右に曲がります。ご注意下さい」という声がスピーカーから流れる。左に曲がる時は「左に曲がります」。バックする時は「バックしますのでご注意下さい」という具合だ。広い道や大通りでは、そう気にはならない音であるが、私の病院の近くは狭い道が多く、曲がる度に何回もハンドルを切り返しするので、例えば曲がりきるまでは「右に曲がります。ご注意下さい」というアナウンスが5~6回鳴り、すぐ「バックしますので、ご注意下さい」がバックをし終わるまで続く。そして又「左へ曲がります。ご注意下さい」と続く。ちょうどその自販機の横が私の寝室の枕元になるので、たまったものではない。だからいつも朝6時には起こされてしまうのである。
最近その自販機が新しくなった。すると人が近付くと「お疲れ様です。温かいお飲み物は如何ですか?」としゃべるのである。朝帰りの人が通る度に「お疲れ様です。温かいお飲み物は如何ですが?」としゃべるので、酔っぱらっている人は珍しそうに何回も自販機の前を行ったり来たりする。
考えてみると、日本では至る所でこういったアナウンスをしている。都会の駅ではプラットホームに電車が入って来る際「白線までお下がり下さい。○番線に電車が入ってきます」電車に乗ると「閉まるドアにご注意下さい」電車が走り始めると「電車内での携帯のご使用は御遠慮下さい。他の乗客の皆様のご迷惑になりますので、電源をお切りになるようお願いします」次の駅が近付いてくると、「次は○○駅です。お降りの方はご準備下さい。開くドアは右側です」電車から降りようとすると「電車とホームの間があいておりますので足元に充分お気を付け下さい」。すべてコンピューターで合成され録音された人工的な声である。
話によると、外国の駅では全くアナウンスというものがなく、急に電車が来るという。そしてパッとドアが開き、乗ると次の駅に止まる時にもアナウンスがないので、降りる時は必死でプラットホームの駅名を見なくてはいけないそうだ。そんな習慣に慣れている外国人にとって、日本という国はなんてうるさい国なんだろうと思うに違いない。
それにしても、自販機の飲み物を運送する車は、早朝などはそのアナウンスをオフにしてもらいたい。又、自販機のアナウンスもやめてもらいたい。お陰で私は朝おちおち寝ていられず、少々睡眠不足の毎日である。私にしては珍しくちょっと怒っている。