気持ちが落ち込んだ時に励ましてくれるのが、患者さんからの便りだ。先日もある一通の便りを頂いた。

 その患者さんは妊娠3か月の頃、不正出血を起し来院された。診断は「切迫流産」つまり流産しかかっているのでる。安静を勧めたが結婚していないし、年末で勤めている美容室も忙しくて休む訳にもいかない。さて、どうしたら良いのか。本人自身が迷っているのが、話をしているうちに分かった。

 しかし、このままでは流産してしまうかもしない。そこで「せっかく授かった命だから仕事を辞めて安静にしなさい」と本人と婚約者に話をした。しかし入籍もしていない二人にとってそういう訳にもいかないらしい。

 そうしているうちに仕事中に出血が多くなった。切迫流産から進行流産になりつつあるのでとにかく入院させた。その後、胎児も段々大きくなり安定してきたので、数週間後退院をさせ外来で経過を診ていた。

 結婚して新居を構えたが、その場所から当院が離れているので紹介状を書いて欲しいと言う。出産まで見届けられないのは残念であったが、本人にとってはその方が良いと思い紹介状を渡した。

 それから数か月が過ぎ、はたして無事出産出来ただろうかと気にかけていた頃、一通の手紙が届いた。

 「妊娠に気付いた時は、結婚もしていなかったのでどうしようかと思いました。あの時、中絶しなくて良かった。切迫流産でもうこの子はダメなのかと泣きながら入院した時、先生に助けて頂いたお蔭で、この子の命はここにあるのだと思います。出産を終えた今、この子の顔を見ていると涙が溢れてきます」。その手紙を読み、母となり、幸せそうに赤ちゃんを抱く彼女の姿が目に浮かび、胸が熱くなった。

 そしてまた当院に嬉しい便りが届けられた。一度、流産という辛い経験があるため、不安にかられていた患者さんからだ。やはり今回も出血があり入院が必要となった。超音波でようやく胎児が確認されてから生まれるまで「先生、赤ちゃん大丈夫ですよね」と私に何回も確認する。私も内心は無事出産までこぎつけることが出来るだろうかと心配であった。しかし『案ずるより産むが易し』とても安産だった。産後入院中も赤ちゃんのことが心配で、何回もナースステーションに来られ、一晩中赤ちゃんの扱い方を聞かれていた。

 退院後も赤ちゃんがおっぱいをなかなか上手く吸ってくれないと、毎日のように外来に来られた。はたしてこのお母さんは子育てが上手くいくのだろうか。育児ノイローゼにならなければ良いがと心配したが、そのうち段々顔を見せなくなった。

 それから4ヵ月。若葉マークだったお母さんからの便りには「生まれて4ヵ月。抱っこが大好きで一日中抱いて、二人で汗だくになっています。今では母乳だけでも、体重も標準を追い越し元気に毎日過ごしております」と写真も添えられていた。

 患者様からの手紙で幸せな近況報告をもらうと、それまで苦労したことも昔話のように思え、産婦人科医になって良かったと思う。生まれた一つの命というのは、何にもかえがたいものであるというのを実感するのである