デパートで物産展をやっていた。昼は仕事で行けないので、行くのはいつも夕方7時過ぎだ。その位の時間になると、スーパーと同じように値引き合戦が始まる。例えば天ぷら詰め合わせが通常1000円のものが600円。駅弁などは半額になることもある。得をしたなといつも思いながら、つい頬が緩む。そしてつい買ってしまうのである。
先日も唐揚げが300円と書いてあり、この量で300円は安いとニコニコしながら「これ下さい」と言うと「600円になります」。「えっ、600円?」。300円の間違いじゃないかと店員に尋ねると、200gで300円だという。「そのパックは400gあるので600円です」と言う。お金を出していたので、それを引っ込める訳にいかず、結局渋々それを買った。つい閉店時間だったので、安くなっているのだと勘違いした自分に呆れながら「クヤジィ~!」という思いを持ちながら泣く泣く600円を払った。
その時、何年か前のことを想い出していた。それはある居酒屋のことである。初めての店にふらりと入り、カウンターに座ると目の前にイケスがあり、色々な魚が泳いでいる。どれも美味しそうだ。そして『9月はいよいよ伊勢海老解禁です。今、旬で美味しい伊勢海老は如何ですか』とメニューに書いてある。水槽を眺めると体長40cmもありそうな伊勢海老が何匹もジッとこちらを見ている。そうか今月から伊勢海老は解禁になったんだ。それじゃこれを注文しようとメニューを見ると1100円と書いてある。こんな伊勢海老がたったの1100円とは安い。きっと解禁になったのでサービス価格になっているのだろうと、一番大きいのをワクワクしながら注文した。
しばらくすると出てきた。大皿に盛られた伊勢海老はまだピクピク動いていて、迫力満点である。早速口に入れた。するとプリプリしていて実に美味い。「幸せだなぁ~」と呟きながら夢中で食べた。本当にこんなに大きな伊勢海老がたったの1100円で良いのだろうか。余程そこのマスターのきっぷが良いのだろう。これじゃ儲からないだろうからといつもより多目のお酒を頼み、良い気分になり、「マスターごあいそう!」と立ちあがった。
こんな安くて良いのかなラッキー!と思い、会計するところへヨロヨロと歩いていった。するとマスターが「有難うございました。9800円になります」という「えっ?9800円。何かの間違いではないの?」急に酔いが醒めた。「どうしてそんな値段なの?」と尋ねると、逆にマスターは私に何でそう言われるのか分からないという顔をした。
そこでそこにあったメニューをマスターに見せて「ほら伊勢海老1100円と書いてあるでしょ。どうしてそれがそんなに高いの!」お酒を一緒に頼んでも3000円位だと思っていたのに…」。するとマスターは呆れた顔をして「その値段の横に1100円(100g)と書いてあるでしょ?伊勢海老は大きさが色々あるので、100gでの値段になっているのです」よく見ると、小さな文字でそう書いてある。何だそういうことか…。「お客様の食べたのは600gある立派な伊勢海老だったのでそんな値段になったのです」。そうかスーパーなどで伊勢海老を売っているけど、だいたい大きいのは1匹5~6000円はするもんな。こんな値段のはずはない。
マスターも「こんな常識のない客なんて初めてだ。もう来んでいいよ」というような顔をしている。恥ずかしくてお酒で酔った赤い顔をもっと赤くして、大金を支払った。財布に残ったお金は200円。「あぁぁ~」。それ以来伊勢海老は怖くて食べたことがない。