「ねぇあなた、今から行きつけの店に行くけど、何か買ってきて欲しいものはない?」突然夕方家内が私に言った。「そんな急に言われても、すぐには思いつかないな、何でそんなに今日買わなくちゃいけないの?」

 「それはね、今日その店で安売りをしているの。そして千円以上買ったら福引きが引けるの。だからあなたの欲しいもので、千円以上の値段のものじゃないといけないの」

 なるほどそういう訳で…。でも、急に言われてもそんなにすぐ思いつくものでもない

 「そうだなぁ、昨日は歯ブラシとティシュとシャンプーは買ったし、別に何も買ってきてもらいたいものなんか思いつかないなぁ」

 「頑張って何とか思いついてよ。千円で福引が出来るのよ。私、朝から三回も行っているんだけど、みんな4等賞。その賞品でこんなに沢山ゴミ袋貰ったの」

 「それでそこに沢山ゴミ袋が積んであったのか。それにしても、その為に買いに行くものなんてないしな~」考えれば考える程、こんな時に限って買いたいものが頭に浮かばない。

 「そしたら、ボールペンとメモ帳、消しゴム買ってきてよ。今は必要ないけど、いずれ必要になって買いにいかなくちゃいけなくなるかもしれないでしょう」

 「えっ、たったそれだけ?それじゃ5百円にもなりゃしない。もっと何か他にないの?」また頭を捻りながら考える。

 「そうしたらネ、ハーブの香水買ってきて。一個九百円もするからそれと消しゴムを買えば何とか千円になるんじゃない?」「何もそんなに無理して買ってこなくてもよいんじゃないの?」

 「何で私がこんなにしつこく千円に固執するかと説明するわ。というのも、千円以上買えば福引できるのだけど、三千円買っても1万円買っても千円以上は一回しか引けないの。だから千円ずつ区切ってレシートを貰えば4千円買ったら4回引けるでしょう。私ね、先日5千円以上買物したのよ。それでてっきり5回は福引をしようと張り切って並んだわけ。1回終わって2回目をしようとしたら係の人が『お客さん1回だけですよ』と言うのよ。『だって5千円買えば5回じゃないの』と言ったら、『お客さん、千円以上が1回となっておりますので、申し訳ありません』と言うの、それならそれを予め言ってもらわないとこちらも腹が立つじゃない。5回も引けると思って並んだんだから…」

 なるほどそういう訳だったのか。家内は千円を一組として商品の組み合わせを考えていたのだ。

 男の私としては何をそこまでしてと思うけど、家内にとってそれはそれは屈辱を受け、リベンジ(復讐)したいとその時思ったらしい。気が付くと閉店時間だ。「私が行かない!」と言うと家内は慌てて店に走って行った。

 次の日ふと台所の廊下に目をやると、ゴミ袋がたくさん投げ出してあった。どうやら全部4等だったらしい。男の私には分からない女の執念をその時見たような気がした。まあ、しかしこれで暫くはゴミ袋を買わなくても済む。