とにかく暑い。年々熱く感じるのは地球温暖化のせいか、それとも年のせいか分からぬが、とにかく暑い日が続く。

 テレビでもこの猛暑の様子を毎日伝えている。街を行きかう人達は日傘を差したり、センスでバタバタやったり少しでも涼しくなるように振る舞っている。その中に必ずネクタイを締め、早足に歩いているサラリーマンの姿がある。見ているだけで本当に暑そうだ。

 元々ネクタイはローマ時代、街頭で演説する弁士が首に巻きつけた首飾りに端を発するそうだ。今のネクタイに近くなったのは、17世紀フランス国王の親衛隊のクラバート連帯が、襟の代わりに布を首に巻いたことから始まる。

 その後、18世紀から19世紀にかけて、今のネクタイに近いものが考案された。寒い地方でマフラー代わりに保温の目的で用いられたのがイギリスで流行し、日本に広まったという。

 だから、本来、ネクタイというのは防寒の目的で作られたファッションなのだ。ところが日本人は、それがイギリス紳士の身だしなみだと思い込み、ネクタイをすることがフォーマルだと信じるようになったのではないだろうか。冷房が発達していなかった昭和30年代は、ノーネクタイでも良しとされ、開襟シャツでもフォーマルとされていたが、どこでも冷房が普及している現代では、ネクタイをすることが常識になってきた。

 日本人は温暖型の皮膚体質である。全身に230~240万本の汗腺を持っている。ところが日本より暑い亜熱帯地方の人達の汗腺は270~280万本もある。汗腺が少ない分、日本人は熱を放射する機能が劣っていることになる。それなのに真夏にネクタイをして、熱の発散を妨げているのだ。

 実際、ネクタイをするかしないかで、体感温度は2~3度違うそうだ。ということは部屋の温度を適温28度に保たせようとすれば、25~26度に冷房をセッティングしなければならない。その温度はネクタイをしていない女性には寒すぎる。だから夏でも何枚もパンストを履いたり、カーディガンを羽織ったりしている女子社員がいる。中には夏になると冷え性で通院する人もいる。

 そこで毎年ノーネクタイ論争が起きる。冷房の普及で、夏場の電力消費量は大幅に増え続けている。各電力会社をPRしようと、ノーネクタイで、半袖シャツで仕事をするように通達しているが、接客しなければならない職員や役員はやはりネクタイを着用しているそうだ。

 外資系の会社ではかなりノーネクタイが普及している。ある化粧品会社は20年以上も前からノーネクタイとなり、ポロシャツ、アロハシャツ、シマの開襟シャツで仕事をするので、職場が華やかになったそうだ。その上、着るものが自由になり、一石二鳥の効果があったとか。

 平家物語に「六月無礼とて紐解かせ給ひ…」という一節がある。「六月になったら暑くなり、あまりきちんとした服装より涼しく過ごしましょう」という意味だ。

 テレビの司会者や政治家が35度を超える日でもネクタイをし、紳士面をして仕事をしている。そんな様を見ていると、やはりどうもネクタイをしていないとだらしなく見えてしまう。一般サラリーマンも、仕事中はネクタイを着用しないとだらしなく見えるという理由で汗だくでネクタイをしている。ネクタイを外すとだらしないと言う風に思われるから、仕方なくしているのだ。単なるメンツの為に…。だから一斉に夏になればノーネクタイにする法律を作らなくてはならないのではないか。毎年繰り返し報じられる50年に一度の大雨、土砂災害、河の氾濫などを見ているとそう思う。