風邪を引いてしまった。症状は体がだるいことからはじまった。そのうちに鼻がグスグスである。家内は「早く薬を飲んで寝なさいよ」と言うが風邪を引いた時は熱燗に限るというのが私の持論だ。

 風邪薬など飲まなくてもそのうちに良くなる。但し熱燗を飲まなくては良くならないと家内に強調した。

 すると家内は「それを口実にお酒を飲むんでしょ!分かってるんだから、あなたの魂胆は…」。確かにそれもあるかもしれない。しかしやはり体が本気で熱燗を望んでいるのが自分で分かるのである。

 熱燗など久しぶりに飲むので、食器棚の奥からようやく琉球焼きの徳利を引っぱり出した。暫く使っていなかったので、ほんの少しホコリが溜まっている。考えてみれば去年の暮れに風邪を引き、その時に使用して以来なのだ。それなのに家内は酒を飲みたいだけの口実だと言い張る。

 一升ビンのフタを開けると、ポンと良い音がする。日本酒のフタを開けるのも久しぶりなので、ポンという音が出るのである。もし毎日飲んでいれば、キキキーという音がするはずである。まぁ、それは私の自己弁護かもしれないが…。

 一升ビンから徳利に注ぐというのは、風邪を引いて気分が悪いはずなのに気持ち良いものだ。それを電子レンジで正確に60秒温める。それより短いと気が抜けたような酒だし、それ以上だとネコ舌の私にとっては、とても飲めた代物ではないのだ。飲んでみるとちょうど良い熱さにつかっていて『こりゃ風邪薬を飲むよりかはずっと効く』とホクソエンだ。

 体がやはり熱燗を求めていたのだろう。それは五臓六腑に広がっていき、本当に美味い。お酒がこんなに美味しいなんて久しぶりである。気が付いたらあっという間に一合を飲み干した。体がまだお酒を求めている。家内がトイレに行った隙にフタを開けた。今度は2度目だったのでキキキーという音がして栓が開いた。

 トクトクとお酒をついだ。又『やっぱり風邪引きには熱燗のお酒でしょ』と無意識に独り言を言いながら、電子レンジでチーン。2合飲んだら体も温まり、ウトウトしてきたのでベッドで休んだ。気が付いたら朝7時である。なんと12時間近くも眠っていたのである。風邪はすっかりよくなっているはずだと起きてみた。しかし昨日より酷くなっている。鼻水がタラタラ出てティッシュが手離せない。

 起きてきた家内が尋ねた。「ネェ、あなた風邪の方はよくなった?きっと熱燗を2合も飲んだからすっかり良くなったでしょ。何と言ったって風邪には熱燗が一番良いってお医者様であるあなたが言うんだから間違いないわ…」。「うん。でも例外もあるみたいだね。だってあんなに体が温まってたのに、昨日より悪くなってるんだから…」。ガンガン痛む頭を布団の間からのぞかせながら私は答えた。

 「だから言ったでしょ。早く風邪薬を飲んで寝りゃよかったのよ…」。確かにそうかもしれない。医者の不養生とよく言うが、患者になった時の医者ほどタチの悪いものはない。

 結局その後4日間は風邪が良くならず、今日位から少しずつ元気が出てきた。