大分の兄が久しぶりに訪ねてきた。「これお土産」と差し出したのは、サラダとカレーとチャーシューである。「何なの、このお土産?」と首をかしげていると、「これ僕が作ったんだよ。みんな美味しいって食べてくれるよ」とちょっと自慢気である。今までの兄のイメージからかけ離れているので、本当かなと半信半疑だった。
翌朝、家内が食事を作ってくれた際、目玉焼きと一緒にマカロニサラダが添えてある。これがものすごくうまい!!もしかしたらこれが昨日言っていた兄の手作りのサラダなのだろうかと思い、兄に尋ねてみるとそうだと言う。マカロニサラダの中にツナが入っていてマヨネーズで和えてあるのだが、その味のバランスが絶妙にいいのである。思わず「うまい!!」と言うと、兄が嬉しそうな顔で「だろう」と鼻高々である。
兄夫婦は長年医師として第一線で活躍していた。70近くになり、近年仕事をおさえつつある兄は、多忙な妻を支える立場になった。「仕方なくね」なんて笑いながら、料理に洗濯、皿洗いと腕を磨く兄は、なんだか誇らしげだ。「ウチの食器は俺が磨くからピカピカだぞ」なんてセリフ、仕事一筋だった兄が言うとは以前は思いもよらなかった。
実は私も一年間料理教室に通っていた。だから料理のノウハウは兄より詳しいはずだ。だが知識はあっても、一向に作ろうという気にならない。家内には悪いが、もう少し長い目で待っていてもらうしかない。
さて私の得意料理は生春巻きである。生春巻きは代表的なベトナム料理。一番のコツは包む皮のやわらかさである。約20cmの円形で、厚さ2~3mmの半透明の薄い米の皮で出来ているライスペーパーを水に濡らすのであるが、そのタイミングが難しい。早いと皮が硬いし、やわらかいと巻く事が出来ない。ちょうどいいやわらかさが必要なのである。初心者にとって一番確実な方法はライスペーパーを霧吹きで湿らせ、濡れフキンに包んで戻す方法だ。そのコツさえ覚えていれば、後はエビ、きゅうり、豚肉、チシャなどをそれに包んで出来上がりである。少しきつめに巻くのがコツなのであるが、思ったより簡単に出来上がる。それをタレにつけ食べるのである。いつか家事に目覚めたら、家族や友人に手料理をふるまいたいと思っている。
私と兄は8歳違うのだが、私の人生の8年先には兄がいて、私の道標のように先導してくれている。兄を見習い、いつの日か家事協力のできる夫になろう。兄の背中を追い駆けていれば、いつか兄を越える料理が作れるだろうか。それは難しいかも知れないが、そんな日がくるかもしれない。そういくつになっても兄は良きライバルである。