最近色々な居酒屋、バーやスナックなどの飲食店を訪れる度に尋ねることがある。それは「この店は出来て何年になります?」と聞くことだ。中には「出来てまだ1週間しか経っていません」という店があり、ある時は「あなた様がこの店の初めてのお客様です」と言われたこともある。何故そんなに出来たてすぐの店が分かるのか。

 おそらく普通だったらたまたま歩いていたら、「ちょっと寄ってみよう」という気持ちでふらりと入るということになるだろう。しかし私の場合万全の下調べをして寄るのだ。

 幸いなことに、私の今住んでいる所は宮崎一の歓楽街のニシタチの外れにあるのだ。歩いても1分もかからない。もうこれ以上ないという好条件の所にある。

 店を作り始めて出来上がるまで2~3ヵ月はかかる。全く新しいビルに出来るものもある。だが多くは前にあった店を壊してリニューアルするのである。その工事を行っているのは朝7時頃からだ。夕方位までには終わらないと、周りの店に迷惑をかける。工事の為に車が何台も路駐になっている。工事の騒音もある。だから遅くとも夕方4時位までには仕事が終わる。その日の仕事が終わると青いシートが掛けられる。その後あっという間にその姿を現してくるのだ。

 最初は何の店が分からないのだが、だんだん○○屋さんが分かるようになる。だいたい内装が出来上がるといよいよ、調理道具が運び込まれる。オープン2~3日前には沢山の花と開店花輪が飾られる。そうなるとそろそろオープンも近い。

 出来るだけオープンするその日に行くようにしている。しかしその日は招待客で一杯で入れないことが多い。中は知り合いや親戚の人で一杯なのだ。だから1週間位して行く。すると殆どお客さんがいない。

 古い建構えの店もよく入る。そしてまず尋ねるのが「この店は出来て何年になりますか?」殆どの店は4~5年というのが多い。しかし中には「30年になります」と胸を張るマスターもいる。そう言われてみればカウンターは塗装が剥がれ、トイレも古い感じがして今一つである。勿論その間に色々リニューアルをしているので、決して不愉快な空間ではない。

 又長続きしている店は夫婦で切り盛りしている店も多い。それは人を雇わないので人件費がゼロなので値段が安い。しかも美味い店が多い。捻くれた私みたいな客でも上手く取り扱ってくれ、殿様気分になりほっこりとした気分で帰ることが出来る。これがチェーン店でアルバイトばかりだとこうはいかない。何を尋ねても「店長に聞いてきますからお待ちください」と何となく落ち着かないのである。

 ところで当クリニックは今年8月で開業35周年を迎えた。まさかこんなに長く続くとは思わなかったので、驚くやら、これからどうしていけば良いのか困惑している。

 35年前同じ時期にオープンした飲屋が数軒ある。ある店はピアノバーでサティの曲をいつも弾いてくれていた。私と同じ年齢であるが、今年他界された。ある店は昭和の歌謡曲やフォークソングをレコードでかけてくれる店だった。私の誕生日には似顔絵を描いてくれた。それはとても私に似ていて、今でも外来の棚に飾ってある。その方も60代後半で、肝臓癌で亡くなった。

 このようにいわゆる行きつけだった店が次々閉店すると、こちらも心が落ち込んでしまう。みんな優しくて、思いやりがあって良い人ばかりだったからだ。

 しかしいずれ人間は仕事を辞める時がくる。その時「あの人は良い人だったなぁ」「もうちょっと頑張ってくれれば良かったのに」「本当に惜しい人を失くしたわ」なんて言われながら一生を終えたいものだ。

 まだそう言ってくれる人はいないので、粛々と仕事を続けていくしか術はないのかもしれない。まぁ私の場合、仕事が楽しいので、体の許す限りはベストを尽くしたい。まだリタイヤという言葉はまだ今の所はない。