10年位前、50歳を過ぎた頃から何か学びたくなり、まず通ったのがパソコン教室。パソコンのパの字も知らなかったので、パソコンって何だろう?と興味をもって通ってみた。ところが何せ初めてのことばかりで、1ヶ月位通ったがチンプンカンプンで結局ものにならなかった。
次に習ったのがピアノ。実は小学3年生頃ピアノを習ったが、1年ほどしか続かなかった。というのも、レッスン内容と言えばクラシックばかり。『バイエル』から始めるのだが、あまりにも退屈で仕方なかったからだ。また男の子が習うこと自体、気恥ずかしさもあった。結局、ピアノの楽しさを味わう前に辞めてしまった。
生来、音楽好きな私は大人になってからも演奏してみたいという衝動にかられ、幾度もピアノ教室に通った。昔と比べ、ポピュラーやニューミュージックなどジャンルは選べるものの、当然の事ながら譜面通りに弾かなければならない。ちょっとでも譜面通りに弾かないと雷が落ちる。だから私にはどうしても馴染めなかった。どの先生に習っても、1ヶ月位しか続かない。
しかし、50歳過ぎて出会った先生は違った。自由に弾いていいのだ。つまり耳で憶えた通り弾いて構わないのだ。これにはハマッた。どんなに間違えてもOK。そして何より褒めてもらえるのだ。楽譜も自分の好きな曲の譜面を持って行っていい。分かりやすく言えば、ジャズのアドリブと同じだ。弾いていて実に楽しいのだ。音楽は『音を楽しむ』と書くが、全くその通りなのである。分娩などが重なると、レッスンに行く事が出来ず休まざるを得ない事もあったが、楽しみながら3年間レッスンに通う事が出来た。
次に始めたのが料理教室である。食べ歩きが趣味で、自分でも作ってみたいと思ったのがきっかけである。当時ちょうど『男の料理』ブームで、中年男性が料理を作る事が話題になっていた。『男子厨房に入らず』というタブーが少しずつなくなっていたというのもある。たまたま雑誌で見かけた料理教室は土曜日3時からのコースで、偶然にも外来が終わってから通える時間だ。実際行ってみると、生徒さんは20代の女性ばかりで、いわゆる花嫁修業のコースだった。それでも通い続け、和洋中から酒の肴までいろんな料理に挑戦させてもらった。1年通ったら「もう教える事はありません」と言われ、辞めることになった。
それから何を始めようかと考えていた所、急に絵を描いてみたくなり、パステル画教室に通い始めた。しかし実際にデッサンなど描いてみると、実に恥ずかしいくらい絵心が無い。やはり基礎が出来ていないのである。それで3ヵ月通った末、辞めてしまった。
50代もあと半年。いよいよ『50の手習い』も残りわずかと思っていたら、新聞広告の片隅に手品教室の案内を見つけた。これだ!これを『50の手習い』の最後にしようと思った。
実は何年も前から手品に興味があり、100円ショップで売っている手品グッズを密かに買い求め練習していたのだ。しかし説明書通りやってもなかなか上手く出来なかったり、やり方が分からない物が多く、諦めていた。そこへ飛び込んできためったに無いチャンスを逃さず手はないと、早速申し込んだ。
会場に行くと20人位の人が集まり、プロの魔術師から手ほどきを受けていた。最初のマジックは指の間からお札が出るという技である。見ると実に不思議だ。一通り奇術が終わるとタネ明かしがある。それを見ると「なるほど・・・」と思う。「鏡の前で毎日練習して下さい。そしていつか人の前で披露して下さい。そうすればもっと上手くなりますよ」とアドバイスされた。
私もこっそり練習していつか人前で披露してみよう。皆の驚く顔を想像するだけでワクワクする。『50の手習い』のラストにふさわしく、ひと花咲かせよう。何事も学ぶのに遅すぎるなんてない。