毎年、1月に人間ドックを受ける。もう20年も続けている年中行事だ。
40歳前後の時は、何も心配しないで受けていた。
「異常なし」という返事が返ってきても当然と思っていた。
ところが50歳を過ぎた頃から血圧は上がり、コレステロール、中性脂肪は上がり、
下がるものと言えば視力、身長位のものである。
当たり前の事であるが、老化現象が起きているのだ。
 人間誰でも平等に老けていくのに、自分だけは例外だと思う。
同級生が白髪になったり髪が薄くなったりしているのを見て、
ニヤニヤしながら「やっぱり年だなぁ」と思ってしまうが、私も鏡を見ると年相応の顔をしていて、
自分でもガッカリする。特にここ数年前から顔にシミが出来たり、歯が抜けたり、
パッと起きる事が出来なくなったり、焼肉を食べようと思わなくなったり、
若い女性を見ても胸がときめかなくなったり、物忘れがひどくなったり、
自分でも老いを嫌と言うほど感じているはずなのに、自分だけはまだ若いと思っているのだ。
 しかし、とりあえず人間ドックだけは受けておこうと、
20年前から決めているので毎年続けているのだ。
だが、今年はちょっとショックな事が起った。毎年一緒に受けているドクターが亡くなったのだ。
1年前は青島太平洋マラソンを完走し、人間ドックもいつも一緒に受けていた人が亡くなった。
話を聞くと亡くなる9ヵ月位前に突然吐血したと言う。
いろいろ検査してみると胆のうに癌が出来ていて、見つかった時はもうすでに手遅れだったという。
それから9カ月の闘病生活の末に亡くなったというのだ。
あんなにがっちりした体格の彼が亡くなるなんて信じられない思いだった。
 又、去年の夏にはやはりドクターの奥様が亡くなった。
1年位前から体調を崩し、いろいろ検査したが原因が分からない。
半年後、膵臓癌である事が分かった。しかしもうその時は手の施しようがなく、
いろいろ治療したが亡くなったという。あれほどの愛妻家で、
いろんな病気を知りつくしているはずの勉強家の彼がそれを見つけられなかったのだ。
その悔しさと無念さで、今でもかなり落ち込んでいて人と会えない状態が続いている。
しかも2人共50代、60代なのだ。
 先日、同級生のドクターに「毎年、健診受けてる?」と尋ねたら、今まで1度も受けた事はないと言う。
「何故?」と問うと「受けて病気が見つかると怖いから…」と言う。
いつもなら「あんた、そういう事してたら、病気になった時『やっぱり医者の不養生だった』と皆に言われるよ」
と言い返すところだが、それが言えなかった。
 確かに検査したら異常が見つかるというのは怖い事だ。
検査を受けるというだけでも、1週間位前から胸がドキドキして夜も眠れなくなる位だから、
検査の結果が異常という事になれば、きっとパニックになるだろう。
つまり「見つかった時はその時さ」と言うのが彼の考え方なのだ。まさに人生ケセラセラ。
 こうやって次々と周りの人達が亡くなり、その上その人達がいろんな検査をしていたのにもかかわらず
病気が発見されず、見つかった時は手遅れという話を聞くと、確かに人間ドックを受けても無駄だと思いたくなる。
 ドキドキして受け、ハラハラしながら結果を待つ。
かえってその事の方が精神的に良くないのかもしれない。
そう思いながら結果が郵送してくるのを待っていた。
 数日後、それが届いた。ハラハラしながら、ちょっと唾を飲み込んで封を切った。
結果は『異常なし』。それを見た時「やった~」と飛び上がった。ハラハラしながら待った甲斐があった。
しかし最後の所に『体重注意、血圧要注意、肝臓は年に1回の検査を』と書いてあった。
 人間ドックが全ての健康をチェック出来るとは思わないが、
それでも『異常なし』という御墨付をもらうと「あと1年は頑張るぞ」という気になる。
それだけでも十分人間ドックを受ける価値はある。
「来年もきっと受けるぞ」と思いながら、その結果が入った封筒を神棚にしまった。