生まれてこの方、1人暮しをした事がない。中学3年の2学期までは宮崎で家族と一緒に過ごした。その後、東京の中学校に転校したが、兄や姉と一緒だったので食事も洗濯もしてくれた。大学に入ると、姉夫婦と同居したので、この時も1人になる事はなかった。卒業して間もなく、結婚したので結局60近くになる現在まで1人暮しをした事がない。
1人暮らしの経験がないという事は、料理や洗濯はもちろん、身の回りの事を何一つ自分でやった事がないという事だ。例えば片付け。自分の物はある程度片付けるが、家に帰って来て服は脱ぎっぱなしである。ましてやお風呂洗いや、皿洗いなどもした事がないのだ。
しかしそれでもいくつかのルールがある。まず食事は食べ終わったら、必ず食器をお盆に乗せ台所のカウンターに置いておく。洗濯物は洗濯カゴに入れて置く。燃やせるゴミ、燃やせないゴミは分別しておく。お風呂は上がったら、風呂場のマットを立てかけ、浴槽の栓を抜いてお湯を流しておくなどだ。しかし考えてみれば、それは夫として又、男として本当に最低限しなければならないルールである。
最近、うちの家内は忙しい。病院事務としての仕事、同居している2人の娘の相手、可愛い2人の孫の子守り、そして一番手のかかる私の世話だ。
先日、家内が風邪で寝込んだ時、私の服は自分の部屋はもちろんのこと、居間、台所、和室に脱ぎっぱなしにしたままだった。家内はものすごく綺麗好きで、散らかっているのが大嫌いである。1日数回は掃除機をかけるし、脱いであるものはどんどんたたんで片付けてくれる。それが彼女の1つの楽しみでもあるので、私としては出来るだけそういう事が出来るように、脱ぎっぱなしにして来たつもりだった。ところがさすがの家内も病気になると片付けも出来ず、玄関から廊下、自分の部屋まで転々と脱ぎっぱなしの服が床に並んでいた。
不精者の私もさすがに見かねてせめてズボンは2つ折りにしてタンスへ。ブレザーなどはハンガーに掛けてクローゼットへ。下着類はお風呂場の洗濯カゴへと自分なりに頑張ったのだが、トレーナーなどはどうやっていいか分からず、そのままになっていた。
家内もそれが気になっていたらしい。しかし熱でフラフラするので、たたみたいのだがそれが出来ない。そこで私がトレーナーのたたみ方を習い、片付ける事にした。
早速、寝ている家内の枕元へ行き、やり方を教わった。まずトレーナーを裏返しにして、袖を3分の1の所で折る。その後、その袖を下の方で揃え、そして2つ折りにする。まるで手品みたいに脱ぎっぱなしのトレーナーがあっという間にきれいにたたみ終わった。恐る恐る私も真似をしてみた。するとどうだ。きれいにたためたのだ。今まで私に出来ないと思っていた事が出来ると嬉しいと同時に、「何だ、たいしたことないじゃないか」という気持ちになる。ところが、家内が元気になると、また家内に任せっぱなしになってしまった。
それからしばらくして家内が忙しくて、片付けが大変そうに見えた。そこで、自分でこっそりやってみた。ところが今度はうまくいかない。家内の所へトレーナーを持って行き「もう一度教えて!」とお願いした。すると家内は目にも止まらぬ早さで、あっという間に折りたたんだ。それは私が覚えていた方法ではなかった。たった数日の間にすっかりそのたたみ方を忘れてしまっていたのだ。
これから年老えば、段々男がやらなくてはならぬ主婦の業が増えてくる。料理しかり、洗濯しかりだ。服をたたむのもその1つだ。これからは毎日忘れないように自分の脱いだトレーナーくらいはササッとたためるように毎日特訓をしようと思う。
そういう事が出来る事が、何よりの家内孝行になるだろうし、家内との夫婦仲を末永くむつまじくしていくものだと思っている。さぁ頑張るぞ!主夫のはしくれとして・・・。