1ヵ月間に、通販でワイン20本取り寄せる。「そんなに沢山よく飲めるね」という声が聞こえそうである。というのも、どうも私はワイン通ということになっているからだ。ワインに詳しくて、色々なウンチクを話してくれるというイメージがあるという。
親友のM君は、本当にワイン通で、どこでどんな葡萄の種類で作られたのか即座に答える事が出来る。いつが一番出来が良かった年なのか、その年ある地方で出来たワインは高値で取引されているとか、実に詳しい。
勿論自宅には何十万円もするワインセラーがあり、しっかりワインは管理されていて、1本10万円クラスの物もゴロゴロ置いてあるらしい。もっともそれをご馳走になったことがないので、本当に美味しいかどうかは想像するしかないが…。
私も彼に負けじとワインセラーを買った。通販で3万円。12本入る代物ではあるが、彼の大きさに比べたら10分の1の大きさしかない。それでも一定の湿度と温度を保ってくれるので、冷蔵庫に入れっぱなしにしておくよりも少しは旨いだろうと自己満足している。
ワインの味があまり分からない私は、一定の基準を決めている。それは買う時1500円以上の物を選ぶ。ワインもピンからキリまであり、コンビニで売っているフルボトルで500円位のワインは今一である。
友人は400円位で売っている「王様の涙」というワインの愛好者で、実に美味そうにそれを飲む。知人達には「こんなものをよく飲めるな」と酷評であるが、彼は頑なにこの銘柄に固執する。味が分かる分からない以前に、きっと何かこの「王様の涙」に忘れられない思いがあるのだろう。
さて何故1500円以上のワインを選ぶのか?それは1000円以下だと少し風味に欠けるのであるが、1500円以上の物はそうでもない。勿論3000~5000円の物はもっと美味いに違いないのであるが、そこまでお金を払って飲みたいとは思わないのだ。例えれば、海で深さが1m50cm位であれば溺れない。何故なら簡単に足がつくからである。ところが2m超えると溺れる。それは身長より深いからだ。それは1万mの深さの所でも同じだ。つまりワインの味も1500円というのが2m位の海の深さで、それ以上の1万mも溺れる深さは同じことだ。つまり1500円以上の値段の味は5千円でも100万円でも私などにとって同じだと思うのだ。
さて20本のワインはボルドーで作られた新作の赤ワインである。まずそれを箱から取り出し、販売店、電話番号などが書き込んであるラベルを剥がす。そしてそこに当院で生まれたばかりの赤ちゃんの写真を貼り付けるのである。つまり愛おしい我が子の写真がラベルになっているオリジナルワインの出来上がりである。
それをラッピングして「これはボルドーのワインです」と手渡す。手渡されたお母さんは「一体何故ワインを?」と不思議がる。しかしその我が子のラベルを見た瞬間、その謎が解け実に嬉しそうにそれを受け取られる。
「もったいなくて飲めないわ…」「赤ちゃんが1歳になったら家族で飲みましょう」「赤ちゃんが20歳になりお酒が飲めるようになったら一緒に飲むわ」「一生の宝物、とても飲めないわ」。そういう声を聞くと、苦労して作った甲斐があったと嬉しくなる。
これからも生まれる赤ちゃんの為に、これを続けていこうと思う。因みにもう3000本位は作っている。それがそのまま飾ってあるか、あるいは飲まれて空き瓶になっているかは知る由もないが、少なくともそれを手にした時、きっと『子育て頑張ろう』というスイッチが入っているはずだ。是非とも一生の宝物にして欲しいと思いながら手渡している。