先日、金環日食が見られるということで太陽観測用グラスを購入した。
だが残念ながら天気に恵まれず、見ることは出来なかった。
家内がどうしても見たいというので、息子が色々探し歩いて、ようやく見つけ、
980円も出して買って来たのだ。しかし結局出番はなかった。
日本各地で見られたということで、色んな場所から中継していたが、
テレビの画面では本当にキレイな金環日食が映し出されていて、悔しい思いをした。
せっかく980円も出して買ったのに、使えなくてもったいないと思った。
次の日その店に用事があり行ったら、入口に大きく貼り紙がしてあった。
「当店で御購入された太陽観測用グラスは、一切返品、返金に応じられません」。
やはり私と同じような考えを持つ人が居て、返品したいと来るらしい。
そりゃそうだ。一度も使われなかったのだから、返品して返金してもらいたいと思うのは、
皆考えることなのだろう。
確かに普通であれば、未使用でレシートさえあれば、返金するのが当然である。
だから店員に喰ってかかるお客さんもいるのだろう。まあ、自分も同じ様な発想をしていたので、
何かその気持ちも分からないではない。
でもいくら封を切ってなくても、次に使えるのは300年後というのだから、
他の人がそれを買う事はないだろう。だからその貼り紙は正しいのだ。
金環日食が見られなかった次の日、新聞にこういう風な記事が載っていた。
「金環日食の太陽観測用グラスは捨てないで下さい。又、チャンスがあります」
そしてその下に「6月6日に金星が太陽の前を横切ります。
その時にそれを使って見る事が出来ます。その時まで取って置いて下さい」というものだった。
一度も使わなかった悔しさが、その記事を見て少しは癒された。
しかしその日が晴れるとは限らないし、ちょうどその頃は梅雨。見られない確率も高い。
それでもやはり、せっかく980円も払って買ったものを捨てるのはもったいない。
とりあえず取って置くことにした。
前日の6月5日の天気予報。やはり梅雨前線が沖縄の方から北上していて、
雲の多い天気だとの予想。やっぱりだめかと思った。
当日の6月6日、もうすっかりそのことを忘れていると家内が「今日、ようやく見られるのね」と言う。
何の事かなぁと頭をひねっていたら、「ほら、金星が太陽の前を横切るのが見えるらしいじゃない」と言う。
そうだ思い出した、そうだった。
テレビのスイッチを入れると、中継でその姿を映していた。
外を見ると太陽は出ているのだが、薄雲に阻まれてぼんやり見えるだけだった。
これじゃやっぱりダメだろうと諦めていたら、その雲の合間から太陽が顔を出した。
慌ててその太陽観測用グラスを当て太陽を見ると、本当に米粒より小さい黒い点が見えた。
見えたのがとても嬉しくて飛び上がりたい気持ちになり、家内にそれを手渡すとしばらく見ていて
「私には何も見えないわ」と言う。本当に金星は小さいので、確かに見づらいと思う。
その後、病院のスタッフにも見てもらったが、ほとんどの人が見えないと言う。
聞くところによると皆、近視だったり、老眼鏡が必要だったりする人が多く見られなかったらしい。
「ああ、もったいないなぁ」と思いつつも、自分だけには見えた満足感が心の中に広がっていた。
「これでようやく980円の借りは返せたぞ!」とほくそ笑みながらそのメガネを引出しにしまった。