経口避妊薬の低用量ピルが日本で発売されたのは、10年前の1999年6月である。
それまでもピルが発売寸前で中止になった事がある。(約20年前)。
それはちょうどエイズという病気が発見され、ピルを解禁するとコンドームなどを使うカップルが減り、
エイズなどの性感染症が蔓延する恐れがあるからという理由だった。
販売される直前で全てが破棄されるという事件になった。
 
 米国では50年前に認可され、日本以外全世界に普及していった。欧米のピル使用者はフランス44%、
イギリス26%、アメリカ18%にも昇るが、日本では3%にすぎない。
コンドームに比べ避妊効果は30倍で0.1%、1000回に一度程度という確率で、
ほぼきちんと使用していれば100%近く避妊出来る事になる。幸いにピル解禁後も、性感染症が増えたという報告はない。
 
 ピルは卵胞ホルモンと黄体ホルモンという女性ホルモンが配合され、排卵を抑え子宮内を妊娠しにくい状態にする。
21日間飲むタイプと28日のタイプがあるが効果は同じである。
 
 何故日本では普及しないのか。1つは日本のコンドームは世界一薄く破れにくい。
1個が数百円で安価。薬局などの入口の自動販売機で販売されていて、人目に触れずに購入する事が出来る。
使用法が簡単などが挙げられる。しかしきちんと使用していても、破れたり、小さな穴が空いていたり、
コンドームが性交後時間が経つと膣内に残り、抜去出来なくなったりするケースも多い。
しかも男性が自分自身で付けない限り、女性から「付けて」とは言いづらい為、全く避妊をせず妊娠してしまうケースも多い。
 
 しかし普及しない最大の理由はピルを飲むと副作用が心配だというものだ。それはピルを飲むと太る。
癌になりやすい。吐き気などが起こるというものだ。低用量ピルが解禁される前は、中用量ピルというものが使われていた。
これはかなりホルモン含有量が多く太る。肝臓を悪くする。吐き気があるなどの副作用が強かった。
本来ならば生理痛が激しい人にその痛みを抑える為に処方されていたのが、
避妊目的のピルとして流用されていたのである。しかし今の低用量ピルはほとんどその副作用はない。
 ピルのメリットは避妊の他に、生理が順調になる。生理痛がなくなる。
月経前にイライラする月経前症候群に効果があると良い事ばかりである。
毎日飲用しなくてはならないという不便さがあるだけである。
 
 ピルの処方をしてもらうには必ず産婦人科を受診しなくてはならない。原則的に問診、診察、血液検査が必要となる。
料金はピルの種類によって異なるが1ヵ月2500~3000円位である。ちょっと贅沢なランチを1回位するほどの料金である。
2回目からはピルだけの処方が可能だ。
 最近では緊急避妊法というものがある。これは中用量ピルを、避妊がうまくいかなかった時から72時間以内に1回、
その後12時間後にもう1度服用する。100%これが避妊出来る訳ではないが、7~8割は避妊出来る。
避妊しない場合の4分の1位に減らす事が可能なのだ。
但しホルモン量が多いので、吐き気などが強いのが欠点である。料金は1万円前後。
 
 ピルが発売され、徐々にではあるが使用する女性が増えてきている。
望まない妊娠であればピルを服用し確実な避妊をして欲しい。
ピルは服用を中止すれば2~3ヵ月で排卵が起こり妊娠可能となる。
ピルは女性が自分で避妊の決定権を持つ唯一の方法である。
女性がそれを用いて生きていくという事は女性の自立にも繋がる。
是非とも望まぬ妊娠になる前にうまくピルを利用して欲しい。それが産婦人科医としてのお願いだ。