数年間のピアノ教室通いをした後、1年間料理教室に通った。それもこの夏に終わり、何かぽっかりと心に穴が空いていた。次に何を学ぼうかとずっと思っていた。先日ふと絵が描きたくなった。小さい時は絵を描くのが好きで、1日中描いていた。父も絵が好きで自分で油絵を描いていたから、子供が絵を描くのを見て嬉しかったのだろう。決して今みたいな上質の紙ではなく、ザラザラした紙であったが、いつでも好きなだけ描けるように置いてあった。一度、姉の似顔絵を描いた事があった。それがあまりにも似ていたので、姉は私に絵の才能があると言ってくれた。父も私の絵を額に入れ至る所に飾ってくれた。飾りきれない絵はダンボール箱に入れ、それが何箱にもなった。
しかし、小学校高学年になるとプラモデルに夢中になり、すっかり絵の事などは忘れていた。高校生の時に一度だけ油絵を描いた事がある。しかし絵を習った事は一度もない。
開業した23年前に、開業したら何処へも行けないので、油絵のセットとイーゼルなど一式を買ったが、結局一度も使われる事もなく倉庫の中にしまったままになっている。
さて、絵をやりたいと言ってもいろいろある。油絵・日本画・水彩・墨絵・パステル画などである。この中で油絵は油絵具とハケ、日本画・水彩・墨絵などは水入れが必要である。それに比べパステルはパステルとスケッチブックさえあればどこででも出来る。そこでパステル絵画教室に行く事にした。
まず、当日その教室が開かれているお店で道具を買い求めた。私が考えたパステル画というのは、クレパスあるいはクレヨンみたいなので描くのかと思っていたが、全く違う。クレパスやクレヨンはパステルに油やロウを混ぜた物で、パステルに比べ安価で使いやすいという。それに比べパステルはもろく扱いにくいのだそうだ。
とりあえず、パステルを買い求めようと店員の人に尋ねた。すると普通はセミハードという硬さのを用いるそうだ。うまくなるとソフトを使うのだそうだが、初心者はセミハードがお勧めだという。そこで24色のセミハードパステルを買った。値段もいい値段で5000円もする。それにスケッチブック。パステル用のスケッチブックというのは表面がザラザラしていて、裏はややツルツルしている。そして決定的に違うのは1枚ずつセロハン紙が挟まっている事である。絵を描き終わったらそのままにしておくと、すぐパステルが前のページの裏を汚してしまうからだという。普通のスケッチブックの倍以上の値段で、1000円もする。それにパステルを固定するスプレー。これだけあれば大丈夫だという。
料金を払い教室の中に入った。するとビックリした事に、私より一回りも上の女性ばかりである。とうに70歳を越えている人達である。その数約15人。目の前に洋梨やカボチャ・レモン・蘭の花などが置いてあり、自分の描きたいものを選び写生するのである。
まずやる事。それはパステルを3分の1に折ることだという。えっ?これを折るの?と半信半疑だったが、先生が目の前でこうやって折るんですとポキッと折られたので、目を丸くしながら24本全部を折った。それから自分で好きなものを前に置いてあるものから選んで描くのだそうだ。
初めての私には、レモンを渡された。折ったクレパスを横にしながら描く。描いた後は指でなぞり、ぼかしていくのである。その為、濡れた手拭きと乾いた手拭きが必要だという。それは用意してなかったので、隣の人から貸してもらった。時々先生が見回って来て、添作をしてくれる。ちょっと手を加えただけで全く違ってくるから不思議だ。
レモンの後は柿とみかんだった。時間があったのでカボチャを描いてみたが、どう見てもスイカにしか見えない。先生がちょっと手直しをして下さったら、今までスイカにしか見えなかったのが、あっという間にカボチャになった。完成すると全員の目の前で披露する。そこで「初めてなのに上手ね」なんて言われ、本当に嬉しかった。しばらくは夢中になりそうだ。