私はタバコの煙が嫌いだ。父は1日50本も吸うヘビースモーカーだった。だが小さい頃の記憶の中にはタバコの煙というのは全くない。大学生の頃は半分以上の同級生が休憩中の教室で平気でタバコを吸っていた。卒業しても先輩の先生方は平気で医局でタバコを吸っていた。就職してもそれは変わらず周りに煙が渦巻いていた。一昔前までは喫煙率8割だったのだから、そういう風景は普通だったのかもしれない。だからあまりタバコの煙を気にしたことがないのだと思う。それがいつの間にか気が付いたらタバコの煙が苦手になっていた。

 30年位までは飛行機に乗る際に喫煙席か禁煙席の予約が取れるのである。そこでいつも禁煙の席に座っていた。しかし何ということはない。その席は真中より前が禁煙、後ろが喫煙と区画されているだけで、部屋が別々という訳ではなかった。だから飛び立つと遠慮なく煙が室内を飛び交う。仕方ないので席を予約する際は一番前の方の座席を予約していたが、まったく意味がなかった。せいぜい1割位は煙が来ないという程度だった。その点列車ははっきり喫煙車と禁煙車が分かれていて助かった。いつの間にか世の中は禁煙の傾向となり、喫煙率も3割を切るようになり、愛煙家には厳しい世の中になっている。

 ホテルも禁煙ルームというのが次々と出来始め、私にとっては良い環境になった。ところが最近まで何回も大変な目に遭ったことがある。関西のあるホテルに泊まったら、前日愛煙家が泊まった部屋らしくもの凄く煙たかった。窓を全部開け、入口のドアも開けっぱなしにするが、まったく臭いが消えない。結局一睡もせずに朝を迎えた。

 最近霧島のホテルに泊まった際、全室禁煙ということだった。安心して泊まったらタバコのニオイがしてくる。何故なのだろうと廊下の奥の方に行くとその階だけ「喫煙室」という部屋があり、そこで吸う煙が廊下に流れてきてしまうのだ。部屋を替えて欲しいというと、当日は満室で出来ないと言う。そこで無理を言ったら「他の階に一部屋だけありますが、現在使用していないのであまりお勧め出来ません」と言う。でも煙たいよりは良いとその部屋に変わることにした。中に入ってみるとそこはまるで物置みたいな部屋だった。しかしタバコのニオイはせずぐっすり寝ることが出来た。

 先日久しぶりに沖縄のホテルに泊まった。全館禁煙なので全く煙の臭いはしない。そしてそこにはこう書いてあった。

『所定の場所以外で喫煙された場合、クリーニング費用のご負担をお願いします』その通りだ!と大きな声を上げてしまった。ゆっくり眠れたのは言うまでもない。