クラスメートというのは、当たり前のことであるが、同じ年である。ところが頭がだんだんハゲ上がったり、シワが増えたり、老眼に悩まされたり、白髪が増えてきたり、見た目にはそのクラスメート各々にかなり差が出てくる。
人間の心理として、同じ年なのに他のクラスメートより若く見られたいという気持ちを持つのは、当たり前のことである。
例えば同級生で飲み屋に行くと、ママさんに同級生であることを隠して、「誰が一番若いと思う。正直に言ってね」と言うと、ママさんは色々と悩みながらも、「そうネ、この方が一番年配で、その次はこの方かしら。そしてこの方ね。そしてあの方が一番若いんじゃない。」
その順で一喜一憂する事になるし、お年寄りと言われると何だか若いふりをしなければならない気になる。
クラス会が終わり2次会に移動した。ゴージャスな店の中でゆったりしたジャズが流れている。ウィスキーのボトルと一緒に美味しそうなつまみが運ばれてきた。そこにはオカキやピーナッツと一緒にクルミも殻つきのまま出てきた。ところがあいにくクルミ割りがない。
友人の多くはオカキやピーナッツを頬張っていたが、殻付きクルミには誰も手を出さない。そのうちつまみも無くなってきた。
「このクルミどうやって食べるの?」隣の一人が聞いた。ママが答えた。
「残念ながらここにはクルミ割りがないから、手で叩いて割ってみて。」元空手部で、力自慢である友人がトライするが、簡単には割れない。ボトルの底や、アイスピックの後ろでトライしてみたが、中々割れない。
食べたい物が目の前にあるのに食べられない時ほどイライラする事はない。だがまさにその通りのことが起こっている。
「どれどれ僕が割ってあげるよ。」
私が口を挿んだ。
「どうやって割るんだよ。」
友人が口々に言う。
「じゃ、やってみるよ。」
クルミを口にくわえると奥歯で力一杯噛んだ。見事にクルミは割れた。
「残りのも割ってくれよ。あんたは本当に歯が丈夫だね。感心するよ。」
「人間何か取り柄があるもんだよ。」
私は自慢した。
4個目のクルミを割った瞬間であった。奥の方がグシャという音がした。
「ア、タタタタ」
「おい、どうした。」
「おおー、いてー。」
どうも歯が折れてしまったらしい。
次の日、慌てて歯医者に行った。
「あんた、幾つだと思っているの。もう70近いのよ。心の中じゃ20歳のつもりかもしれないけど、もういいじーさんなんだからね。」
大きな口を開けたまま「ふぁーい」と私は返事した。