愛くるしい口。愛おしい瞳。けなげな表情。抱きしめたいようなボディ。白魚のような指。クルクルとした天然パーマ。

 隣りのベッドでスヤスヤ眠っている愛らしい人。食べてしまいたい位に可愛い。何ていう名前なの?いつ生まれたの?もしかしたら僕と一緒の日?電話番号は?恋人はいるの?あなたの趣味は?男性の好みは?

 ピンクの布団に包まって何も知らないで寝ている君までの距離、たった15cm。君の吐息が聞こえてくる。あっ目が覚めた。ほんの少しだけ微笑んでいる。

 君のお尻って綺麗だね。まるで天使のお尻みたい。羽が生えていれば天使かもしれないね。

 あらどうして泣き始めたの?どうしてそんなに悲しいの。君の傍に居るから泣かないで…。

 あっそうか君はウンチをして気持ち悪くて泣いていたのか。

 実はここは産院の新生児室。赤ちゃん達が小さなベッドに入れられて、スヤスヤと眠っていたり、エンエン泣いたりしている。

 もしかして数十年後この中の2人が偶然に恋人となり、そして結婚をして子どもを生むかもしれない。

 勿論そんな先まで考えて赤ちゃんに面会に来る家族や、オムツを替えたりする看護師はいないだろう。しかしその可能性は0ではない。

 イギリスのある病院で生まれたカイルとシンシアは1時間違いで生まれた。先に生まれたカイルという男の子、後に生まれたのはシンシアという女の子。2人は生まれてすぐ偶然に新生児室のベビーベッドの隣同士で寝かされた。2人は口を揃えて言う。「私たちは、この世で初めて自分の目で見た人に恋した訳です。」そして一目惚れで結婚しようと思った。

 それから24年。2人は本当に結婚してラッシャー夫婦となった。

 カイルがのろける。

「シンシアは僕より1時間後に生まれた。その1時間が僕にとって一番寂しい時間でした。」

 産婦人科病院の方々、こういうカップルがいる事を肝に命じて赤ちゃんを見ると又ちょっと違う人生観が新生児室に広がるかもしれません。