30年位前の話。新聞を読んでいると、面白いものを見つけた。「ふるさと小包」という広告で、その中に「カイコの小包」というのがあった。それは注文をすると生きたカイコを送ってくるというのだ。価格は3千円。面白そうなので注文してみた。

 2~3日してゆうパックで小さな段ボールに入って送ってきた。段ボールの一部に小さな覗き穴があり、そこから覗いてみると、カイコの幼虫の芋虫が動いて見える。早速受付スタッフにそれを見せると、「キャー」という大声を上げ、それを私の机の上に放り投げた。覗き穴から見ると、元気な芋虫がお尻フリフリしながら動いているのが見える。

 早速開けて見た。中には芋虫が15匹入っていて、桑の葉が同封されていた。娘の夏休みの研究に丁度良いと思い、娘を呼んで芋虫を見せた。ヘビやトカゲは大好きな娘も、芋虫にはあまり興味を示さない。形は同じだが、爬虫類と違って皮膚の冷たさがないからだろうか。仕方ないので私が面倒を見る事になった。

 説明書を読んでみると、まず桑の葉を与えて下さいと書いてある。袋を破り、箱の中に桑の葉を広げ、芋虫も袋から出して一緒にした。しばらくすると芋虫はようやく桑の葉に気付き匍匐前進をするように這いながら器用に前歯で葉を食べ始めた。よほどお腹が空いているとみえ、その動作は休みなく続く。残りの桑は冷蔵庫に入れて保存した。

 夜、寝る前に箱を開けてみたら、桑は殆ど食べ尽くされていたので、新しい桑を冷蔵庫から取り出し与えて自分のベッドに横になった。目を閉じると何やらガサゴソと音がする。イモ虫達が必死に桑の葉をかじっている音らしい。

 その音は生へ執着にも思えるし、子供の寝息みたいにも聞こえる。次の日

起きてみたら、もう桑の葉は食い尽くされていて、又冷蔵庫から出して与えた。3~4日すると食べるペースが落ち、お尻をムズムズさせている。マユを作り始めたのだ。慌ててマユの寝床を作ってあげた。ところが寝相が悪いのもいて、寝床から落っこちている。その度割り箸で元に戻してあげた。

 1週間もすると見慣れた白いマユになった。そのまま絹糸にするかマユ人形を作るか迷ったが、そのままにしておいたら数日後、蛾が飛び回っている。慌てて箱に入れたら、今度は卵を沢山産んでいた。

 たった10日位のカイコとの同棲生活だったが、久しぶりに子供の時の気持ちになった。子供に夏休みの宿題の研究発表として出してあげようかと言ったら、一笑に付せられてしまった。

 因みに当院では『綾の手紬染織工房』で作られているマユ人形を毎年購入している。それは干支によって毎年形を変え、小指位の大きさで中々可愛らしい。それを1月に生まれた人にプレゼントするのだ。

 贈られた方は大喜びでそれを大切そうに持って帰られる。私もお見送りしながら、赤ちゃん達が病気やケガなどをしないように、ずっと元気に育ちますようにとその後ろ姿が見えなくなるまで祈り続ける。