3月3日は『ひな祭り』。
私が小さい頃、父が組み立て式になっている木製の雛段を押し入れから出して、
5段あるひな段を作り、ひな人形を置いていた。
何せ8人の子供のうち6人は娘であった父にとって、
立派なお雛様を飾るという事が自分なりの美学と思っていたのだろう。
それは本当に手作りで立派だった記憶がある。
 ひな人形のとなりの部屋が自分の寝室で、夜なんか1人で寝ていると、
ひな人形達が段から降りてきて、宴会でもしているのではないか。
あるいは刀を持って自分の寝室まで押し入っては来ないか。子供心ながらとても怖かった。
 だが何といっても思い出すのは、菱餅を美味しそうだと隠れて食べて、ひどい目にあった事だ。
毎年お供えで出しているので、もう表面がテカテカしてカビも生えていて
とても食べられそうにないのに食べてしまった。
 次の日、下痢と腹痛で幼稚園を休んだ事を思い出す。
だから菱餅を見る度に、しばらくは条件反射的に下痢をしていた。
 それから30年後、私の子供が生まれた時、母が一回り小さいお雛様を買ってくれた。
それは孫がスクスク育つようにと祈って買ってくれたものである。
それは今もこの時期になると自宅の玄関に飾られ、私の子供達がそれを見ては楽しんでいる。
下の方にオルゴールのネジが付いていて、それを回すと『ひなまつり』の曲が流れるようになっている。
 それと、もう1つ。毎年娘が作ったお雛様をいつも待合に飾る様にしている。
それはフェルトで出来ていて、親が言うのも何だが、中々可愛らしい。
 さて先日、西米良に行く事にした。『カリコボーズのひなまつり』というのが開かれているというのだ。
まず菊池記念館という所へ行った。折り紙で作った下げ雛が暖簾みたいにぶら下がっていて、
中に立派なお雛様が祭ってある。
4~50年前の物で私の小さい頃に実家にあった物と同じ5段の立派なお雛様だ。
そこでは手作りの甘酒を御馳走になった。
商店街の道路沿いに雛段が設けてあり、ガラス越しに見る事が出来る。どれも年代物のお雛様だ。
 食事が出来る場所を探したが何処にもない。そこで『ゆた~と』に行く事にした。
ここは温泉があり、食事も出来るからである。
玄関から入るとすぐお土産コーナーがあり、いろんな試食が出来るようになっている。
『大根のたくあん』『ゴボウの漬物』『梅干し』などの試食が瓶に入っていたので、
とりあえずそれで飢えをしのごうと食べた。
しかしそれだけでは腹は満たされる訳もなく、虚しさだけが残った。
 その横に食堂があり、中に入ると『にしめコロッケ』1個100円と書いてある。
お煮しめの材料が入ったコロッケらしい。それを見ただけで不覚にもグーとお腹が鳴った。
考えてみれば、朝パンしか食べていなかったので、お腹がメチャメチャ空いていたのだ。
それを2つ食べるとようやく落ち着いた。
 素晴らしかったのは、いろんなお雛様を沢山見れたことだ。
中でも紙で作られた白ユリを逆さまにし、その中に灯りをともしたお雛様は美しかった。
それはまるで東北の『かまくら』を思い出した。
 春になると何となくウキウキしてくる。
それもお雛様達の顔を見ているせいかもしれない。お雛様に感謝、感謝である。