開業して最大の悩み…それは遠くへ出かけることが出来ないということである。何故なら、お産はいつあるか分からないし、急患だっていつ来るか分からないからである。
いつかは留守番でも頼んで、ゆっくり出かけてみたいと思うのだが、そのうち、そのうちと言っているうちに、段々出無精になってしまい、外へ出るのが億劫になってしまった。
先日、ANAホリデイ・イン リゾートホテルで、一緒に昼食をという話があった。車で行くと飲めないので、電車で行こうと思い時刻表を調べてみると朝10時過ぎの電車で行くと丁度良い時間になりそうだ。
駅まで車で送ってもらい、自動販売機の切符売り場の前に立つと、何かワクワクしてくる。それは小学生の時の遠足の日みたいな気分である。
真っ直ぐ延びる線路は、まるでどこまでも続いているように見える。実際この線路は、北の果ての稚内駅、西の方は西鹿児島駅まで繋がっているのだ。学生時代大きなリュックを背負い、旅をした。今考えてみるとそれは「自分探し」の旅だったと今になって気付く。つまりその時の旅が自分を見つめ、今から何をやるべきかという未来に向かっていた旅でもあったのだ。
3両連結の電車がホームに入ってきた。こんな電車に乗るのは何年ぶりだろうと思いながら乗り込んだ。列車の中には、運動公園での試合に向かっている選手や、「子供の国」に出掛ける観光客がパラパラと乗っている。その光景はいつもとかわらない。
だが、昔と決定的に違っている光景がある。一つはスマホを手にゲームやラインをしている人が多いこと。もう一つは小さなペットボトルを小脇に抱え、チョビチョビと飲んでいる光景。今の若い人には二つとも不可欠なアイテムなのだろう。
電車が動きだすと、色々な風景に変わる。家並の中をトコトコと走っていた電車からの風景も、少し走ると田んぼが左右に開けてくる。
各駅停車の良い点は、窓が自由に開けられることである。心地よい風が入ってきて、実に気持ち良い。「カタンコトン」「カタンコトン」という音と、左右に適当に揺れることも心地よい。目を閉じると本当に遠くへ来ている気がする。
たった20分位の間だったが随分遠くへ来たような気がした。いつでもどこでへでも行ける人にとっては何でもないことであっても、私にとってはずっと遠い遠い国に来たような気がするのだ。
わずか320円の旅だったが、充分それを楽しんだ。今度はいつ、こんな風な小さな旅を楽しむことが出来るのだろう。何も考えず、何も 思わず、未来と過去の間を行き来している自分。カタンコトンという音がまだ耳に残っている。