家の中で一番偉いのは一体誰なのだろう。まず考えつくのは家の主、つまり御主人だ。家族の為に朝早くから夜遅くまで働く。その為に何とか家族が食べていけるのだ。御主人が倒れたり休んだりしたら、もうそれだけで上手くいかない。いわゆる大黒柱と呼ばれる存在なのだからこれは誰が考えても一番偉い。
だが、今の日本にはこの御主人よりも偉い人がいる。それは家内と呼ばれる人だ。家内と呼ぶ位だから、家の中の事は何でもござれ、知らない事はない。
一方家内という人は、結婚して数年もすると主人を見送る時には「行ってらっしゃい」という言葉も交さず、主人の後姿も見送らずバタンと玄関のドアを閉めてしまう。そんな存在だが、出掛ける時は実に主人の役に立つ存在だ。起きたらきちんと朝食を作り、ワイシャツにアイロンをかけ、靴を磨いてくれる。もし家内がいなければ、きっと男の朝の時間は倍位必要になるだろう。
帰った時もそうだ。玄関のドアを開け中に入ると、すぐにハンガーに背広を掛けてくれる。お風呂もちょうど良い湯加減になっていて、すぐに入れるようになっている。風呂から上がるとビールを冷蔵庫から出し、すぐ飲めるように準備してくれる。
そんな存在だから、家の中では家内の言う事は日本国憲法みたいに正しいという事になる。つまり家内のやる事は絶対的な事で、それを破ってはいけないという不文律が生まれ、自然にそれに従わされてしまうのだ。そう、家の中では子供と同じように主人もきちんと法律を守るのと同じような感覚でしつけられているのだ。
私の家でも気が付いた時には、なんとなくしつけられている事がある。例えば食後の片付け。うちでは食事は全てトレーの上に乗って出て来る。食べ終わると食器や箸、スプーンなどはきちんとトレーに乗せ、台所のカウンターまで運ばなくてはならない。
考えてみれば、いつからこうなったのか記憶にない。多分、子供と同じようにしつけられたので、自然に私もしつけられて来たのだろう。
他にも幾つか口頭で叱られている。例えば靴下。今までお風呂に入る時、ただ脱いでそのまま洗濯カゴに入れていた。それを脱いだら必ず先端を引っ張って長くし、すぐ洗えるようにしておく事。車を運転したら、降りる時座席を前にずらし、家内が運転しやすいようにしておく事。ビールやワインを飲んだら、ビールの空き缶は中を水洗いし空き缶専用ゴミ箱へ、飲みかけワインの瓶は冷蔵庫へ。爪を切る時は、必ず新聞紙を足の下に敷いておいて切る。オナラは家族の目の前ではしない。テレビを見終わったらリモコンはテーブルの上に置く。髪を洗う時は、詰まるのを防ぐ為に必ずプラスチックの髪の毛すくいを排水溝に置く。トイレで用を足したら、出る時は必ず便座を上げ、便座の裏が汚れていないかをチェックする。夕方6時から7時まではテレビのチャンネルは変えない。ズボンに醤油などを溢したらすぐ水に浸けておく。出掛ける時は必ず自分で鼻毛が出ていないかチェックするなどなど…。
これからも知らないうちにどんどんしつけられていくことだろう。『協力出来る事は大いに協力するぞ』というスタンスをいつも持ちながらやっていけたら良いなと思っている。やはり家の中で一番偉いのは家内なのだから…。