「くさや」を頂いた。くさやというのは、八丈島で獲れるアジなどの小魚を、何百年も前から伝わる秘伝のタレに漬け込んだ干物のことである。普通の干物と違う所は、もの凄い臭いがするということだ。

箱から取り出しただけでもの凄い臭いがするのだが、焼くとこれが更に強烈になる。よく海岸などで貝の中身を取った後の貝殻が山積みしてあり、その前を通ると何か腐ったような臭いがするが、それを何十倍にもしたような臭いなのだ。

焼いたくさやを口に入れると、その臭いは最高潮に達する。一年も歯みがきをしてない様なもの凄い臭いが口の中から溢れ出てくる。一度味わったら、こんなものもう二度と食べたくないと思う。

焼いた後の部屋はくさやの臭いがたち込め、一週間位は窓を開けっ放しにしておかないといけない位なのだ。だから決して部屋の中で焼いてはいけない。

しかし、世界にはもっと凄い臭いのする食べ物が存在するというから驚きだ。韓国には「ホンオ・フェ」という食べ物があるという。大きな瓶にエイと干し草を交互に重ね、数日間そのままにしておく。そしてそれを骨ごと切り身にするのだそうだ。

 それは、エイの体内にある自己消化酵素が自分の肉を分解。その後、発酵した菌が尿素を分解し、アンモニアを発生させる。それは脳天にアンモニア臭が突き抜け、涙がポロポロ出て止まらなくなるそうだ。

 中学生の時、アンモニアの瓶のフタを取って嗅いだ経験は誰でもあるだろう。その何十倍も凄いというのだから、それは想像を絶する臭さなのだ。しかしそれを食べると病みつきになり、又食べたくなるのだそうだ。

 私も臭い物が大好きである。といっても、「くさや」や「ホンオ・フェ」に比べたら月とスッポンという物ばかりである。例えばブルーチーズ。チーズに青カビが生えていて、箱を開けるとそれだけでちょっとヤバイゾという様な臭いがする。

 それを薄くスライスし、口に頬張ると、青カビのピリッとした辛さが舌にまとわりつき、病みつきになってしまうのである。だが、残念なことにこの美味しさを分かってくれる人に出会うのは希だ。多くの人は慌てて吐き出そうとする。

 さて、外国人の大嫌いな日本の食物。それは納豆だろう。殆どの外国人は納豆を口にすると眉間にシワを寄せ「こんな味ありえない!」という様な表情をする。しかし日本人にとって、「納豆=臭い」という感覚は殆ど無いだろう。確かに中には納豆嫌いの人もいるにはいるが、それでも臭いと思う人はいないのではないか。東京では昔から納豆を食べる習慣があった。朝ご飯に納豆は定番である。ところが関西の人は殆ど納豆を食べないと言われている。しかし最近では健康に良いということで関西の人も食べるようになった。スーパーに行くと実に何十種類もの納豆が並んでいて選ぶのに困る位だ。一昔前までは宮崎生まれの人も小さい時にあまり納豆を食べたことはないのではないだろうか。私も小さい頃に納豆を食べた記憶はない。だから初めて食べた時は「何だ、この不味さは」と思った。 

 そういう私も今ではスーパーで納豆を買い求める。よく3個100円位で売っているが、そういうものは買わない。一番高い納豆を買うのである。そうはいっても一番高くても200円でお釣りが来る。つまり納豆はリーズナブルで本格的な味を味わえる食べ物なのだ。一つ一つ手作りしているからこそ、納豆の味が引き出されているのだと思う。

 国や習慣や好みにより、食べ物に好き嫌いはあるかもしれない。日本にも納豆を初め鮒鮓、魚醤など臭い食べ物が沢山ある。人それぞれによって好みが違う。よくあんなものを食べられると思っていても、そのうちに病み付きになることも多い。まさに「ミイラ取りがミイラに」なるのが

食べ物の面白さなのだ。さて今日も臭い食べ物を探しに街へ出よう。