医師になった時、童話作家を夢みたことがあります。先日机の引き出しを片付けていたら、その原稿が出てきました。それはこんな話です。
地下の倉庫の中でネズミ達が井戸端会議です。もうすぐ春祭りも近いことだし、景気づけにここらで1つ何かやろうじゃないか。じゃ野球大会がいい、いやマラソン大会がいい、いやそれよりも美人コンテストがいい…いろんな意見が出されましたが、結局ものまねコンテストをすることになりました。「では明日の夜、ものまね大会を行うものとする。出場する者は各々よく練習してくる様に」。ネズミ達はそれぞれ一生懸命練習しました。
あるネズミは「ワォ~、ワォ~。おれは百獣の王ライオンだぞ~」。あるねずみは「ヒヒーン、ヒヒーン。おれは世界一速いサラブレッドだぞ~」。又他のネズミは「キャッ、キャッ。私は世界一可愛いいチンパンジーだわよ!!」。
その日になりました。数百匹のネズミたちが会場に現れました。みんなどの顔も自信にあふれています。「おれは昨日寝ずに練習したからもちろん優勝出来るさ」「いや、おれは生まれつき器用で、他の動物も間違えるくらいうまく鳴けるんだぞ」「何言ってんのさ、私の喉を知らないのね。今まで3回も優勝してるんだから」「何さ、へなちょこ婆さん。俺なんかどんな動物の鳴声だって出来るんだぜ」「何言ってんのよ。私なんか小さい時から天才と言われているのよ。みんなには負けないわ」。
みんな自信満々です。
さてコンテストの始まりです。最初はライオンのものまねです。「ウォ~ウォ~。おれは百獣の王ライオンだぞ。ウォ~ウォ~」たてがみの代わりに両耳をたて、口を大きくあけ、歯をむきだしにして大熱演です。しかしながらトップバッターであがっていたせいか、ライオンの鳴声にはほど遠く、まるで似ていません。聴衆からはブーイングの嵐。ひっこめというやじで途中でひっこんでしまいました。
次は馬のものまねです。「ヒヒーン、ヒヒーン。おれは世界一速いサラブレッドだぞ。ヒヒーン、ヒヒーン」足を出来るだけ長くのばし、サラブレッドのつもりです。しかし所栓サラブレッドに似ても似つかぬ風体の為、これも又ブーブーの野次。
次はチンパンジーです。「キャッ、キャッ。私は世界一可愛いいチンパンジーよ。キャッ、キャッ」。手足をブラブラさせながら愛嬌たっぷりに舞台狭しと走り回ります。しかしあまり似ていないと言われ、しょんぼりと舞台をおります。
次は犬のものまねです。「ワン、ワン、ワ~ンワン」しっぽを振り、人懐っこそうな顔をしながら舞台を歩き回ります。時々足をあげておしっこをするふりをしたりして大熱演です。しかし、人なつっこい顔をしたということで総スカンをくってしまい、途中でひきずりおろされました。だって昨日人間がしかけたわなで仲間が一匹殺されてしまったからです。そう、犬と人間は仲良しなので、ネズミ達は犬が大嫌いなのです。やはりいかにソックリなものまねと言っても、そのタイミングを誤ったというべきでしょう。
次に出てきたのは、小やぎのものまねです。力を抜き自分のヒゲをだらりと下げ、いかにもやぎヒゲの様にし、新聞紙をムシャムシャ食べるさまはいかにもやぎにぴったりの風体です。でも鳴声はもう一つという感じです。
次に出てきたのは、見るからに美しい容貌をしたネズミでした。「私は世界一美しい喉でものまねをするの。そして、鳥の中でも最も美しい鳴声をするウグイスの鳴声をするわ」と言うが早いか、高い所によじ登り「ホーホケキョ、ホーホケキョ」。それはそれは鈴を鳴らした様なきれいな声です。ネズミたちは一様に驚き、感心し聴き惚れました。何であんなに愛くるしく鳴けるのかしら。彼女こそ、もう絶対優勝間違いないわと大騒ぎです。
その他にもいろいろネズミ達は出てきましたが、このネズミほどうまく鳴くことが出来ません。もちろん、この美しい声で鳴いたウグイス嬢に満場一致で優勝カップが贈られることになりました。このウグイス譲は「私は生まれつきネズミとして生きてきたわ、でもいつも思っていたの。この様なきたないネズミって嫌だわって。そして、いつもあの空を飛んでる鳥みたいになりたいって。だからこうやってウグイスになりきってるの。だから私はもうネズミじゃなくてウグイスよ。あなた方みたいな腐った様な食べ物なんか食べないわ。一番いいものを人間が食べる前に食べるわ。それが私に与えられた当然の権利よ。私はネズミじゃないわ。私はあなた方みたいな汚らしいネズミじゃないの。ブルジョアの美しいウグイスよ。そうよ、ウグイスだわ。あなたたちと違うのよー」。
そう叫ぶと、勝利に陶酔してるかの様に「ホーホケキョ」と又一声鳴きました。その時でした。ネコが、あぁうまそうな鳥がいると大きな口を開けて、パクッとウグイス嬢を食べたのは…。さすがの自慢の美しい鳴声も、ネコのお腹の中では誰の耳にも届きませんでした。