最近、お気に入りのスナックを見つけた。
『♯&♭』という店で、造りは普通のスナックなのだが、入口の所に小さなピアノが置いてあり、
奥の方にはドラムセットがあり、壁にはギターがかかって、
カウンターにはマラカスやタンバリンが置いてある。
頭上には32型の大きなテレビが置いてあり、カラオケも歌えるという店だ。
普段はスナックなどほとんど行かないのだが、ここの店は楽器で遊ぶ事が出来るので、
ちょっと変わっていて私にとって面白いのだ。先日もちょっと寄ってみた。
御客さんは1人も居なかったので、早速そこのマスターとジョイント演奏をする事にした。
私はピアノ、マスターはフルートである。「ここに譜面がありますから…」と手渡されたが、
ほとんど譜面が読めない私にとっては必要ないので断った。
一曲目は『フライミートーザムーン』というスタンダードな一曲。次にボサノヴァの名曲『イパネマの娘』だ。
下手なピアノのくせに、フルートの演奏が加わるとまるでプロのミュージシャンになった気になる。
知らないうちにドラムが加わりトリオになっていた。
何故ドラムが?と思った。後で理由を尋ねると、時間がある時にこの店に寄りドラム演奏をしているとのこと。
この人もプロなので、やはりリズムがしっかりしていて、本当に自分が上手いと勘違いしそうだ。
話によると、ここのマスターは元プロミュージシャンで、東京でドラムを叩いていたという。
壁に大きなドラマーの写真が飾ってあったが、それが若き日のマスターの姿だそうだ。
今から40年も前の話というから、一昔も二昔も昔の話である。
その後、プロを諦め宮崎に帰って来てこの店を始めたという。
そのうち少しずつ御客さんが入って来た。
生演奏だけでなく、カラオケもあるので、ほとんどの御客さんはカラオケ目的である。
音響も良いので気持ちよく歌えるのである。
横の男性が古いスタンダードの曲を歌い始めた。
よく見ると私の知ったドクターで、私より10歳年上の方だ。
私と同じように、渡り鳥みたいにいろんな飲食店やスナックをフラフラと
お1人様気分で楽しんでいて、いろんな店で顔を合わせる色男である。
ふとその隣にはどこかで見たような顔が…。
そうだ!!同級生のお父さんで90歳近くになるのにまだ薬局をされている方だ。
歌はやはり古い歌のような曲で、初めて聴くような曲ばかりである。
焼酎のロックを飲みながらこの御二人の顔を見ていると、
私の10年後、30年後の姿が目に浮かぶような気がした。
この御二人のように好きな酒を飲み、好きな曲を歌い楽しめたらいいだろうなぁと思った。
勘定を済ませ外に出ると、木枯らしが吹いていてとても寒かったが、心の中はポカポカしていた。
又、この店に行きたい。