古稀を過ぎ、人生の中でのピークはいつだったのだろうと考えることがある。多分体力的には30代だっただろう。医学的な技量は50代か。人生を楽しんでいたのは60代になってからだと思う。

 先日オリンピックのメダリストのストーリーをTVでやっていた。有森裕子選手は陸上名門校に入ったが補欠で、大した成績も残せず、毎日辞めようと思っていた。しかし努力の結果バルセロナ・オリンピック女子マラソンで日本人初めての銀メダルを獲得した。そして4年後色々なプレッシャーに打ち勝ち、銅メダルを獲得した。銀から銅へランクは下がったが彼女はこう言った。「今回初めて自分を自分で褒めたいと思います」。

 何度も故障や怪我にみまわれ、何度マラソンを辞めようと思ったことか。しかし自分を信じて走った。その結果が銅だったのだ。そのメダルの色ではなく、自分を全て出し切った自分へのエールだったのだ。

 岩崎恭子選手は1992年14歳の中学生の時バルセロナ・オリンピックに出場した。するとあれよ、あれよと勝ち進み決勝に進出した。そして初めてのオリンピックでまだ14歳なのに見事金メダルを獲得した。プールから上がった後どんなお気持ちですか?というインタビュ-に「今まで生きていた中で一番幸せです」と笑顔で答えた。

 とにかく毎日練習に明け暮れ、何も楽しみなどなかったに違いない。だから頑張って金メダルを取り、有頂天になっていたのかもしれない。殆どの人は称賛の声を上げたが、一部の人は「14歳で世の中の何が分かる」と言った人もいた。何気ない一言が波紋を広げたのである。確かにまだまだ長い人生の中でそれからももっと幸せな時を迎えることもあったかもしれない。その後彼女は金メダリストというプレッシャーに押し潰され、オリンピックのような記録を出すことはなかった。そしてその時言った言葉をずっと後悔したという。その時は本心だったのだろうが、年齢的なタイミングが悪かったのである。

 古代インドでは人生を4つの時期に分けていた。それは「学生期」「家住期」「林住期」「遊行期」である。まず「学生期。」若い頃は大いに学ばなければならない。色々なものをどんどん吸収する時期である。「定住期」とは結婚などして家族を持ち、どっしりと生活する時期である。「林住期」というのは人間として成熟して、今からどうやって残りの人生を生きていくか模索する時。「遊行期」というのは仕事もリタイヤし、これからどうやって楽しく毎日を送り、死を迎えるかを考える時である。

 さて、そこで自分自身は今をどのように評価したら良いのだろう。今言えることは古稀を迎えたら、平均寿命の82歳から考えるとあと10年余りの人生だと考えている。しかしどういう訳か今が一番楽しい。子ども達も独り立ちして子育てから解放され、仕事もそんなに忙しくない。時間がある時はドライブで海を眺めに、お腹が空いた時はちょっと美味しいものを食べに行く。隙間時間を使ってエッセイを書き、ピアノを弾く。何と贅沢な良い生活をしているのだろう。きっと今が人生で一番楽しい時期かもしれない。  

 こういう時に岩崎恭子選手のように「今日が今まで一番幸せです」と言ってみたい。70歳を過ぎたら、そう言っても誰からも後ろ指を指されないだろう。だってそれだけ一生懸命自分なりに生きてきたのだから…。

 因みにあるTV番組で、100歳を超えた女性に「今まで生きてきたうちで、いつが一番幸せだったのですか?」とインタビューしていた。「若い娘だった頃が一番幸せだった」と答えるかと思ったら全く違っていた。「今日が一番幸せ!」こんな風に言える人生を送りたいなぁとその時つくづく思った。