飲み屋街を歩いていると、生け簀が道路沿いから見える店が何軒かある。その水槽の中には色々な魚が泳いでいる。一番多いのはマアジ。その他にもカワハギ、シマアジ、イシダイ、パッチンエビ、イセエビなど沢山の魚やエビが泳いでいる。生け簀に入れた後は餌をあげることもないので、腹ペコなはずなのだが、そんな表情も見せず悠々と泳いでいる。

 いずれ食べられる運命、つまり死が待っているのに「そんなの知らない」なんていう顔をしてその順番を待っている。それを見ていると生きるという悲哀を感じる。海で捉えられた時にはびっくりしただろうが、こんな安住の場に身を置かせて貰えて有難いと思っているのであろうか。

 先日そんな水槽の中に、横幅が1mはあろうかと思うような大きなタラバガニがいた。きっと寒い海で捕獲され、この店まで運ばれてこの中に入れられたのであろう。あまりにも巨大で水槽を独り占めしているという感じだ。

 何か月か前に他の店の水槽にもタラバガニが入っていた。1ヵ月位してその姿がなくなっていたので、そこのマスターにその後どうしたのか訊ねてみた。すると1ヵ月も餌をあげていなかったので、身もスカスカで全く美味しくなかったという。「早く食べればよかった!」と後悔したそうだ。一匹数万円もするカニだったのに、もったいないことをしたと悔しそうに言っていた。

 そんなことを思い出しながら水槽を眺めていると、突然生け簀の上から網が入ってきて一匹の魚が消えた。きっと今から活き造りにされるのであろう。考えてみれば我々人間も同じ動物。この魚のように突然命を奪われることもあるかもしれない。最近の悲惨な事件、事故のニュースをTVで見ながらそんな儚い気持ちになった。