寒い時食べると美味しいもの、それは鍋物だろう。私は元来あまり鍋物というのは食べない。というのも鍋に材料を入れ待つというのが出来ないのである。食べるものは目の前に出てきて、すぐ自分の分だけ食べる。というのが私の食べ物に対するスタンスなのだ。だからそういう点から言うと、材料を自分で入れ、火加減をし、煮たったら自分の器へ移すなんて作業は面倒臭くてやってられない。しかも肉だけを多くとると文句を言われるし、気を使わなくてはならない。もちろん若女将などが目の前で材料を入れてくれ、それをよそってくれるのであれば何も文句はない。
 今まで鍋物では何回か失敗したことがある。5、6年前、友人数人と鍋を囲んだ。メインはプリプリしたカキ。普通はそれを早速鍋に入れ、何分か待つのだろうが、そのままシャブシャブみたいにちょっと火を通し食べた。表面だけはちょっと熱いのだが中の方はまだ冷たい。しかし美味しかったので、次のカキも同じ様に次々と食べた。とにかく美味しいカキだけは他人より早く一人占めして食べようと思ったのである。
 次の日大変なことになった。いわゆる食当たりしてしまったのだ。御存知の通り、カキは生で食べられるのと火を通してでないと食べてはいけないのがある。それは分かっていたのだが、表面を熱すればOKと思い、人に取られまいと思って食べたのがいけなかった。朝から晩までトイレの中で過ごしていた。人からカキに当たるとひどいですよとは聞いていたが、こんなにひどいものだとは知らなかった。
 40年位前はもっとひどいことになったことがある。家内と2人で大分の安心院という所に行った。ここの名物はスッポン。生まれて初めてスッポン鍋というものを注文した。目の前に出てきたのは見事なスッポン。私は初めて食べるものは出来るだけ生で食べようというポリシーがある。そのポリシーが大間違いだった。スッポンを鍋に入れ、半ナマのまま食べたのである。その時も表面だけはふやけていたので大丈夫だと思ったのだ。
 それから車を運転して帰ったのだが、10分もすると息が苦しくなった。気のせいかと思ったが、いくら深呼吸しても空気が肺の中に入ってこない感じがする。まるで重たい布団でぐるぐる巻きにされてしまっているようだ。そのまま息が止まるのかと思った。約1時間近くその状態が続いた。しばらくすると少しずつよくなったのでようやく家まで帰りついた。
 あとでそれはアナフィラキシーショックという一つ間違えれば窒息死していたかもしれない状態だと知った。つまりスッポンアレルギーである。みんなに「お前なんかに高級スッポンは合わねえんだよ」なんて冷かされたが、まさにその通りだったのかもしれない。
 昨年末どういう訳か鍋が食べたくなった。年末年始、子供達が帰ってくるので、家族で鍋を囲んでという気持ちもあったからだ。そこでまず秋田の「きりたんぽ鍋」を通販で注文した。家内の実家は秋田なのだが、1度も食べたことないという。あきたこまちで作ったきりたんぽはモチモチして美味しかった。
 年末に友人から「ごっそ便」という、カタログの食物の中から自分で選べるのをお歳暮でもらった。その中から「あんこう鍋」を注文した。茨城の方で採れるあんこうを鍋のセットにしてあるという。あん肝も入っているというので楽しみにしていたが、あん肝はタクアンサイズのがたった4切れ。あん肝大好きな私は?と思った。それでも味は抜群に美味く、友人に感謝感謝と言いながら家族で食べた。
 そうしているうちに又、お歳暮が届いた。開けてみると何とこれも鍋セット「純鶏名古屋コーチンの水炊き鍋」である。これには名古屋名物のきしめんまで入っていた。これも美味しくて家族で食べた。
 あれほど鍋が苦手な私でも、ワイワイガヤガヤ言いながらつつく鍋は楽しいと再発見した。今度居酒屋に行ったら、早速鍋を注文してみよう。そして自分で勝手に好きなものを好きなだけ取るのではなく、鍋奉行にそれをまかせて、殿様気分でそれを食べようと思う。